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【次世代交通】
地域社会の「新しい足」 自動運転移動サービスの創出 No.2 利用者と交通事業者は自動運転移動サービス実証をどうみたか

2017年06月13日 武藤一浩


低速モビリティの自動運転による近距離圏内移動サービスへの期待
 2016 年10 月に神戸市北区筑紫が丘で行った、近距離低速のモビリティに対する利用ニーズの有無の確認のためのサービス実証について、前号では、参画した地元住民や自治会へのヒアリング結果をご紹介しました。今号では、参画した交通事業者の声をご紹介します。

・みなと観光バス 代表取締役社長 松本氏
オールドニュータウンには新しい移動手段が必須
 神戸市東灘区住吉台地域において、くるくるバスという住民主導のバス事業を展開して10年以上が経ちました。導入当時の人々は、少し離れた駅などまでの移動手段を求めていましたが、10年が経った現在では高齢化の影響で、それよりも近距離内での移動にニーズの中心が移りつつあります。そのような中、日本総研から提案があった今回のモデルは当社の問題意識と合致しており、即賛同して検討・展開したい方針を示しました。
 また、交通事業者同士の日常のお付き合いの中で、同様の課題を感じている方々は少なくないという手応えがありました。そこで、発起人として神戸自動走行研究会(※)を立ち上げ、4社の地域交通事業者に同志となっていただき、活動を進めています。

次世代交通

※神戸自動走行研究会
運転手不足と高齢化問題の解決策として自動運転の導入を研究する、神戸市の交通事業者による任意団体。本実証を主体的に実施。発起人はみなと観光バス(株)。メンバーはほかに、近畿タクシー(株)、恵タクシー(株)、六甲産業(株)、有馬自働車(株)(順不同)。

 我々として最も気になっていたのは、オールドニュータウンにおける近距離・低速の移動手段に対する住民ニーズの有無でした。今回の実証を経た結果、確かなニーズが存在することを確認できたと思っています。
 ただし、今回はプロのタクシードライバーによる運行であったことが、利用者に受け入れられた大きな要因であったという感覚もあります。今後の実証では、自動運転車両に対して利用者の受容性が得られるかを検証する必要があります。引き続き日本総研と実証検証を進めていけることを期待しています。

・近畿タクシー 代表取締役社長 森崎氏/恵タクシー 代表取締役社長 小笠原氏
地域コミュニティ密着の移動サービス提供
 今後のタクシー事業の発展には、自動運転を取り入れざるを得ないと考えています。利用者の減少や運転手の担い手不足が急速に進み、廃業さえ検討する経営者が少なくない業界であるからです。
 オールドニュータウン内を中心とした近距離移動サービスは、タクシーでは採算が合いにくいのですが、人件費のかからない自動運転を活用すれば、地域密着の移動サービスとして、業界の新しいサービスモデルに成長するものと期待しています。我々は、タクシー事業者が「タノシー事業者」と呼ばれるように業界全体を盛り上げたいという思いで今回の実証に参加させていただきました。次は、運転手を派遣せず、自動運転車両の運行管理を担う立場として事業展開できるモデルを検証し、業界全体に広く告知していければと考えています。

・六甲産業 代表取締役社長 盛岡氏
カーシェアリングでの自動運転
 地域の移動手段を提供することを目的に、EVや超小型モビリティを活用したカーシェアリング事業を立ち上げました。将来的に完全自動運転が実現することを見据えてのことですが、六甲山や三宮での超小型モビリティの乗り捨て型カーシェアリング事業などのサービス実証を経て、自動運転技術がないとなかなかカーシェアリングの利用が増えることは難しいと感じています。
 そのような中、今回の実証はまさしく次の事業展開のヒントとなりました。自動運転については、交通事業者が移動サービスとして提供するものと、カーシェアリング事業者が自動運転技術を要した車両を提供するものとでは異なることが明らかになったからです。また、カーシェアリングの利便性を高めるには、無人で動く車両が運転希望者のもとに移動したり、移動を終えた降車後には所定の場所に戻ったりすることが必要ですが、公道を無人で走行することは、国際条約であるジュネーブ条約(注)の関係で現時点での実現は困難であることも分かりました。
 結局、自動運転に関する現在の法律や技術の動向から、カーシェアリングよりも交通事業者からの交通サービスの提供が妥当と考えるようになりました。地域密着の自動運転サービスは、交通事業者としてのスタンスで進める必要があると思います。

(注)自動運転の車両を公道で走らせる場合の国際的な指針を示したジュネーブ条約

・有馬自働車 取締役 田中氏
観光地で期待する自動運転
 インバウンドへの対応を考えると、観光地における自動運転の導入には、回遊性を高めるために大きく期待しています。小型で低速という条件も狭い路地が多い観光地と相性がよく、有馬温泉では既にレンタカーとして検討を進めています。ただし、乗る場所までの移動や車両を手配する点が利用上の課題となっており、このあたりの解決方法を探るために、有馬で展開しているレンタカー車両であるLike-T3を提供した次第です。観光地には、筑紫が丘地域の特徴の一つである「袋小路」が数多く存在しますので、今回の実証結果はいい参考となるはずです。

・利用者や交通事業者の生の声とともに
 自動運転は新しい交通サービスを実現させるための重要な技術です。技術を実際のサービスとして生かすためには、利用者や交通事業者の生の声を聞きながら検討を進めていくことが不可欠です。自動運転に関わるできるだけ多くの方々にこのような声を届け、社会に欠かせない自動運転サービスの実現を推進ことが日本総研のミッションと考えています。次回は、利用者のアンケート結果を集計し、報告します。


『LIGARE(リガーレ) vol.31』(自動車新聞社出版)地域社会の「新しい足」自動走行移動サービスの創出(前編)P30~33を一部改変して転載

この連載のバックナンバーはこちらよりご覧いただけます


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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