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多様化するベンチャーの「出口」

2017年02月01日 手塚貞治


第1の道「IPO」: 一部上場までのプロセスが明確化
 ベンチャーの「出口(エグジット)」が多様化している。IPO(新規上場)こそベンチャーの成功であり、起業をするからにはIPOを目指すものだ、というのが従来の考え方であった。しかし今やその考え方は多様化しており、ベンチャーの志向性は大きく3つに大別される。
 第1は、そうは言っても従来どおりIPOを目指すという「IPO志向」である。リーマンショック後に年間20社弱にまで落ち込んだ新規上場数であるが、昨今は年間100社に近いレベルにまで増加し、堅調に推移している。
 特徴的なのは、マザーズ等新興市場へのIPOが活況を呈するだけでなく、一部市場に指定替えを行うベンチャー企業が増加していることである。それというのも、マザーズ市場を「市場第一部へのステップアップを視野に入れた成長企業向けの市場」(日本取引所グループHP)と位置付け、一部上場に向けての「通過市場」として機能させるコンセプトが明確になったからである。実際、マザーズ上場から一部上場に指定替えになった企業数は、15社(2014年)⇒20社(2015年)⇒29社(2016年)と年々増加している。今では、新興市場へのIPO審査段階で一部上場までの成長シナリオを求められるケースも多く、一部上場までの成長可能性を含めて上場審査が行われていることがうかがえる。実際、マザーズ上場から1年未満で一部上場に指定替えされる事例も出てきており(例: エイチーム、K-Lab、リブセンスなど)、成長志向の強い企業には一層魅力が高まっている。
 しかしそれだけに、株主・投資家保護には厳しい目が注がれ、2008年の内部統制制度、2015年のコーポレートガバナンス・コードなど、上場企業に対するガバナンス体制強化の圧力は高まっている。

第2の道「積極的非上場」: 戦略的自由度の確保
 こうした状況から、第2の道である「積極的非上場志向」の企業も増えている。成長志向を持ち、IPOを目指そうと思えば可能であるものの、戦略的自由度を確保する意味であえて非上場を選択するという方向性である。昨今では、時価総額10億ドル以上の非上場企業ベンチャー企業を「ユニコーン企業」と呼び、Uber(米国)やAirbnb(米国)、Xiaomi(シャオミ、中国)等の非上場ベンチャーが世界的に台頭している。日本でも、メルカリやDMM等が「ユニコーン企業」に該当するとして注目を集めている。また、時価総額が10億ドルレベルにまでは届かないまでも、あえて非上場とすることで、少人数経営陣による意思決定スピードの速い経営を行おうという志向は、投資環境の多様化を背景に戦略的にあり得る選択肢となっていると言えよう。

第3の道「身の丈起業」: 身の回りから社会貢献を目指す
 さらに第3の道として、大きな利益成長を求めるよりも、自分のやりたいことを通じて身の回りに対して社会貢献していこうという起業が増えている。ここでは「身の丈起業志向」と呼ぶことにする。
 例えば、高齢化社会の進展によって、第二の人生の生き方としての起業が注目を集めている。定年後に始めるベンチャーならば、一般的に多大な利益を求める必要はない。会社員時代の経験や人脈を活かしての起業ならば、リターンの高低は別としてローリスクな運営が可能である。経済産業省では、こうした起業を「ビンテージ・ベンチャー」と呼び、提唱している(2016年3月「活力あふれる『ビンテージ・ソサエティ』の実現に向けて」)。
 若年層からも、NPO法人等によって社会問題解決を目指す起業が始まっている。例えば、保育支援の認定NPO法人であるフローレンスは、「病児保育」「障害児保育」「小規模保育」など、通常の営利企業が参入しにくい分野に対してサービスを提供している。決して利益率が高いサービスとはいえず、受益者である各家庭からの収益だけでなく、積極的に寄付を集めながら活動を続けている状態であるが、「親子の笑顔をさまたげる社会問題を解決する」という同社のミッション実現には、十分成功していると言えよう。
 各自治体によるこうした起業に対するサポート体制も、相当整備されてきた。また、クラウドワークスやクラウドソーシング等のネット環境の進展も、こうした動きに拍車をかけている。
 以上のようにベンチャーの「出口」は多様化しており、従来のようにIPOしなければ成功ではない、という時代ではなくなっている。各人の起業目的に応じた成功があり得る時代になったと言えるだろう。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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