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地域エネルギー事業の目的意識

2017年05月23日 程塚正史


 築地市場の豊洲移転問題が引き続き世上を賑わせている。歴史的に見れば、東京・江戸のまちびらき以来もともと日本橋にあった魚河岸が手狭になったため戦後築地に移転し、さらに東京の拡大が続いているため豊洲に、という時代の流れのように見える。

 同様の市場移転は、過去にもあった。その一つが材木だ。まちびらき当初は日比谷付近にあった材木市場は1600年代に何度か移転を繰り返した後、1700年ごろ、現在の木場に至る。木場は築地と同様に近代まで使用され、1969年に新木場にその役割を譲るまで現役であった。

 江戸時代、都内(江戸市中)で最も多い小売業種は米穀店、その次は薪炭店だったと言われる。薪炭は明治以降、ガス灯の導入や石炭による大規模発電の普及によって姿を消していったが、従来は最も身近な生活物資であった。食料とエネルギー、これが人間の生活を支える二大産業であることは昔も今も変わらない。

 日本では、食料については自給率が定期的に話題になる。カロリーベースで40%を切るようでは、安全保障の観点から問題だという論調だ。一方、エネルギー自給率についてはゼロに近い水準であるにも関わらず、議論されることは比較的少ない。「日本には資源がないからね」と、半ば諦めのムードすらある。資源調達先が、オーストラリア、サウジアラビア、インドネシアなど、日本に対して友好的な国々であることも関係しているかもしれない。

 一方、エネルギー安全保障に関して、欧州は敏感だ。化石資源、特に天然ガスの多くをロシアから輸入しているため交渉力が弱く、その一存で価格を上下させられたり、場合によっては供給を停められたりする恐れがあるからだ。実際2000年代には二度にわたって、ウクライナ問題を契機にパイプラインを遮断されている。

 今年(2017年)3月、欧州のフィンランド、ドイツ、イタリア、デンマークを訪問した。現地の複数のメーカーが開発し販売を始めている、小型ガス化熱電併給(CHP)設備の導入実態を視察するためだ。これらの設備のエネルギー供給規模は、従来の数百kWではなく、10~40kW程度と小さい。数十戸程度の一般住宅向けや、学校や体育館向け、あるいは農場のグリーンハウス向けなどに電熱を供給するための設備である。

 小型設備であるため、複数連ねたとしても、その対象範囲はせいぜい小学校区程度となる。だが驚くことに、地域密着型の事業でありながら、訪問先では必ずと言っていいほど、エネルギー安全保障の話題が出る。設備を導入している地域の周辺から木質バイオマス資源を調達することで、外国に依存しないエネルギーの確保ができるという話である。また、域内資源を使うことで、地域の経済循環に資するという話もある。この類の話題が、大学教授はもちろん、ベンチャーのメーカーからも、農場の社長からも聞かれる。

 日本でも、エネルギーの地産地消の取り組みが一部で進みつつある。また、日本総研でも北海道から九州に至る各地でその支援を行っている。だが地域エネルギー事業を、ともすれば社会貢献活動のような取り組みだと考える向きはまだ少なくない。介護や保育、道路管理、商店街振興など山積みしている地域課題の中で、エネルギー事業の優先順位は高くないと認識されがちなのが実態だ。

 なぜ地域エネルギー事業が必要なのかという、根本的な危機意識や問題認識の共有が、事業を進めるうえで必要だろう。安全保障や域内経済構造は目に見えにくく、数字で表すのも難しい。だが中長期で捉えれば当然必要とされることであり、暮らしを根本から脅かしうる問題だ。

 幸い(と言っては失礼だが)、各地で長年にわたって地域事業を営む方々には、同様の意識があるように思われる。このような輪を広げ、暮らしに密着したエネルギー事業の展開を図りたい。木場の材木商は、扱う商品が建材や燃料として地域で使われることで、日々の暮らしに役立っているという実感があっただろう。あれから300年、地域の暮らしに役立つ、地域の地域による地域のためのエネルギー事業を、日本でも再び普及させていきたい。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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