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新規事業や研究開発の新規テーマ作り ① :たくさんの「アイデア」をとにかく出そう

2017年03月15日 時吉康範


 筆者は、長らく大手企業の新規テーマ出しのアイデア出しを支援してきたのだが、未だに「アイデア」という単語に過剰に反応してしまう。目の前のクライアントの口からアイデアなる言葉が発せられ、人知れず冷や汗をかいてしまった経験も少なくない。アイデアという響きに「誰も思いつかなかったような」「斬新な」という高めのハードルの修飾語がつきまとい、それをどうしても拭い去れず恐怖を抱くのだろう。
 昨年末、「スタイリッシュな」人物の写真が特徴の月刊ビジネス誌が「アイデア」の特集を組んでいた。ここでは記事の詳細には触れないが、全体から受けた印象としては、「世界に通用する」とか、「常識を打ち破る」とか、やはり「アイデア」が「特別な何か」に思える内容であった。

 一方で、テレビでサッカー中継の解説者が、プレーヤーがいいパスを出したときに「いいアイデアですねぇ」、攻めあぐねているときに「もっとアイデアが必要ですねぇ」と言っているのをよく耳にする。
 おやおや、ここでのアイデアは「考え」とか「選択肢」という意味のようだ。アイデアが「誰も思いつかなかったような」「斬新な」ものとしていたのは実は妄想で、もしかしてアイデアとは「普通に考えれば導き出される答え」でもよいではないかと思うようになってきている。
 
 さて、読者のみなさんは、どちらを導出することを選ぶだろうか?
・「1個のいいアイデア」または「100個の普通の考え」
 ビジネスの実践としては、どちらが「アウトプットが成果を生みそうか?」「そもそもできそうか?」「やってみたいと思うか?」といった問いを立ててみることが妥当だろう。
 結論からすると、筆者は、「1個のいいアイデアを出すことは、100個の普通かもしれない考えを並べてみないと『できない』だろうし、突然1個のいいアイデアができたと思っても『成果につながりそうな気がしない』」と思う(ちなみに、どちらも「やってみたい」とは思わない。頭から何かをひねり出すことは楽しいけどしんどい)。
 
 質か数かの議論に正解はないが、ことアイデア(以降、体外に発せられた普通の考えもアイデアとする)に関しては、いくつかの理由で、まずはたくさんのアイデアを出すことが大切だと思う。以降、クライアントの「たくさんのアイデアを出すこと」への不安を思い起こしつつ、理由を述べる。
1)広がり過ぎるという単なる不安:3つ成功させるには少なくとも1000以上のアイデアを出せばよい。新規事業は千三つ(1000分の3の成功確率)と言われる。これが正しいと仮定して、1000のアイデアを実行してみても3つしか成功しないならば、3つの成功を生み出そうとしたらみたら、確率論として、実行しないかもしれないアイデアを含めて、いくつのアイデアを出す必要があるだろうか。この不安は、成功確率の理解によって解決すべきである。できることは成功確率をより高めることである。
2)何も出てこないのではないか、資源が足りないのではないかという不安:アイデアを編集し、アイデア同士を結合すると、何らかの新しいアイデアが出る。一つ一つのアイデア自体は「普通」かもしれないので、たくさんのアイデアのよしあしを一つ一つ吟味することはあまりいいアウトプットを生まない。一つ一つのアイデアの意味を編集し、また、他のたくさんのアイデアを参照することで、(複数人で取り組んでいる場合は特に)いくつかのアイデアを結合して新たな視点、気付きなどが得られることがある。これらの不安はこの結合プロセスによってかなり軽減される。
3)自社の優位性が反映されないことへの不安:「今までいろいろと社内でブレストをやって、たくさんのアイデアを出してみようとしたものの、新しいアイデアが出なかった」というクライアントの反応は結構多い。話を聞くと、(1)日常業務から得られる情報に基づいて、(2)自社技術や強みを起点にして、(3)普段接している仲間うちで、アイデアをたくさん出そうとしていることが多い。この(1)(2)(3)の3つがたくさんのアイデア出しの制約条件となっている。「インプットされる情報」が少な過ぎるため、導出されるアイデアの数は限られてしまうということだ。

 次回、この「新しいアイデアが出なかった」方々に向けて、たくさんの“新しい”アイデアを出すために必要な、②たくさんの新しい情報をインプットしよう、を書くことにしたい。

※このコラムは、筆者が2012年10月に技術情報協会で執筆した「普通の技術者によるテーマ創造のマネジメント」および2015年1月に企業研究会で講演した「普通の人でも使える未来洞察」の続編として、「普通の人でもアイデアを出せる」を軸に執筆した。

※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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