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女性のキャリアカレンダーと教員の長時間労働改善

2017年01月25日 村上芽


 企業が、人材育成プログラムを検討するにあたり、対象が女性の場合は「出産、子育て」というライフイベントの影響を考慮に入れることも珍しくなくなった。例えば、従来30歳前後で行っていた「リーダーになるための心得」のような研修を、前倒しして20代半ばで行い、結婚・出産というイベントのために、そうした素養の獲得が大きく遅れることを未然に防ぐ、といった具合である。
 そうしたキャリアカレンダーでは、40歳前後からは「子育てが一段落して、また仕事にギアを入れる」時期であることが想定されている。第一子の平均出産年齢が30.7歳、第二子の平均出産年齢が32.5歳であることから(これらはワーキングマザーかどうかの区別はない数字。2015年。注1)、40歳のワーキングマザーには小学生低~中学年の子どもが1~2人いると一般化されるのだ。

 では、このワーキングマザーが40代に、仕事にかけるエネルギーをより増やしていくために、欠かせないことは何か。それは、ライフ面でのストレスが可能な限り小さい、ということだ。要素としては、家族の健康(親の介護の発生状況含む)や良好な人間関係、経済的なストレスの小ささなどが考えられる。
 ここで確認しておきたいのは、「本当に、子育てが一段落するのか」という問いである。平均出産年齢から考えると、40代前半には小学校高学年~中学生、後半で高校~大学入学、50歳には第一子が成人しているということになる。子どもが大学に入る頃には「一段落」といって誰も反対する人はいないだろうが、さすがに「40代後半で一段落」というと「遅い」感じがする。言い換えれば、40代突入時点では小学生半ばの子どもがいるのが普通だが、その時期には何らかの「一段落」感がはじまっていないといけないことになる。
 しかし、これが意外に難しい。「一段落」のためには、子ども自身の学習状況や人間関係に、親が介入する場面が少ないほどよい。簡単に言えば、「思春期直前~まっただなかの子どもの、親への依存度がいかに少なくて済むか」に尽きるのだが、現実には、学童保育に入りにくくなったり、親の短時間勤務制度の適用上限を超えたりする一方で勉強は難しくなり、子どもの人間関係も複雑になってくる。「一段落」とはなかなか行かないのだ。

 かつてプリンストン大学教授からオバマ政権の国務省政策企画本部長に転身、その後教授職に戻ったアン・マリー・スローター氏(現在はシンクタンクの新アメリカ財団理事長)でさえも書いたように(注2)、そういう年齢層の子どもと向き合うのは、簡単ではない。子どもの年齢が小さいうちの欲求というのは単純(食欲、気温、排泄など)で、甘える態度もそれなりに分かりやすいが、子どもが大人になりはじめる小学校高学年からは一筋縄ではいかない。自我が芽生え、親よりも友だちの言うことを聞きたくなってくる年頃の子どもに、親は耳を傾けなくてはならないのだ。

 さて、こういう年齢に至って、それまで以上に重要になってくるのが学校の先生の存在だと思われる。先生の振る舞いが、居心地がよいクラスになるかならないかを左右するのはもちろんのこと、進路に影響を及ぼすことも少なくはないだろう。先生のことを子どもが尊敬し、いざというときに頼りになる、と思えるか否か。これが、家庭に持ち帰られる子どものストレスの大きさを左右し、ひいては子どもの話に付き合う責任のある親の負担多寡を左右する。というわけで、仕事に復帰するために保育所が欠かせないのと同じくらい、「40代のワーキングマザーが再び仕事にエネルギーを注ぐ」ためには、「先生が大事」ということになる。

 しかし、その先生は、忙しすぎて子どもの話をじっくり聞く時間の余裕がない、という指摘も様々なところでなされている。産業界では「働き方改革」が年始より連呼されているが、「先生」という職業もそれを必要としている。文部科学省「次世代の学校指導体制にふさわしい教職員の在り方と業務改善のためのタスクフォース」が2016年に発表した「学校現場における業務の適正化に向けて」は、諸外国と比較しても長い勤務時間や残業時間を問題視し、学校給食費の徴収や部活動の負担見直しなどをスタートさせている。「統合型公務支援システム」等の整備による仕事の効率化や高度化も検討されており、IT業界等にとってはビジネスチャンスとなるだろうが、それ以外の企業にとっても、(1)従業員を通じてこの課題とつながっていることを意識すること、(2)ビジネスによる「社会的課題」解決への期待が高まる中でのひとつのテーマとして捉えていくこと、を提案したい。

(注1)厚生労働省「人口動態統計」確定数、出生順位別にみた年次別母の平均年齢、2015年
(注2)アン・マリー・スローター「Why Women Still Can’t Have It All」アトランティック誌、2012年7/8月号, http://www.theatlantic.com/magazine/archive/2012/07/why-women-still-cant-have-it-all/309020/


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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