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廃棄物系バイオマス利用の転換による地域での新たな付加価値創出

2017年01月10日 岩本典之


 パリ協定が目指すCO2排出ゼロに向けては、バイオマスなど再生可能エネルギーの有効利用をさらに推進することが重要である。しかし、日本のバイオマス利用を先導してきた大規模集中型の発電は燃料調達という課題に直面しており、最近ではパーム油加工残渣であるPKS(椰子殻)やEFB(空果房)などの海外からの輸入バイオマスに頼る計画も見られる。
 大規模集中発電とすみ分けながら、さらなる有効利用を促進するために、今後は分散型の中小規模利用の重要性が増すこととなるが、規模が小さい場合には発電の効率も低下するため、新たな工夫が必要となる。具体的には燃焼熱として取り出したエネルギーの熱利用を拡大することが有効である。この結果、必然的に地域内での、エネルギーの地産地消あるいは自産自消の方向性が見えてくる。
 分散型の中小規模利用では、バイオマスの中身の見直しが1つの具体的な答えとなり得る。採算を確保しにくい中小規模利用にとって、安価な燃料という視点から、廃棄物系バイオマスは親和性が高い。筆者は、中規模の面的な地産地消モデルとしての「ごみ」と、小規模の自産自消モデルとして「農業残渣」にそれぞれ注目しているところである。

 ごみ処理施設では燃焼熱から蒸気を作って発電を行っているが、ごみの持つエネルギーのうち、平均で12%程度しか使用されず、大半は大気に捨てられている。併設プールへの供給など一部に留まっている熱利用を、冷暖房や給湯用途で地域に拡大すれば、利用効率を最大で80%程度まで改善することが可能である。ただし、ごみ処理施設は郊外に設置されることが多く、周囲の熱需要が乏しい。安定した熱需要を持つ公立病院や公共施設を周囲に配することも暫定的には有効な手段だろう。
 しかし、抜本的には、公衆衛生の向上、環境保全、環境負荷低減へと変遷してきたごみ処理の目的を、地域へのエネルギー供給という新たな目的へと転換すべきである。従来の目的は、そこでは単なる必要条件となり、技術革新によって今や安心安全な施設となったごみ処理場はCEB(セブ:Community Energy Base)のような呼称に変え、より多くの需要家に効率的に電熱を供給する拠点になる。ごみはCEBの燃料の一部になり、地域の未利用バイオマスなどを混焼利用することで電熱供給量を増加できる。また、CEB周辺では自営線や熱導管から安価なエネルギーを得ることができ、常に一定量のごみ(=燃料)を貯留しているため災害時におけるBCPの面でも地域に付加価値を創出できるのである。

 農業残渣である籾殻は、年間に約200万トンが発生し、うち40万トン、重油10万キロリットル以上に相当する量が廃棄されている。米の副産物で食料との競合関係がなく、主に平野部に賦存して米と一緒に収集される利点がある。一方で薄く広く分布し、供給時期が限定され、農村部ではまとまった熱需要も期待できない。しかし、欲張らずに時期と用途を限定すれば、籾殻の有効活用を進められる可能性がある。例えば、寒冷期の農業ハウスで暖房に使用することで、北海道などで課題となっている冬の営農を燃料コスト面でサポートでき、他の地域でも施設園芸の収益を左右する暖房費の削減という付加価値を創出できる。籾殻の用途は燃料だけではない。籾殻燃焼灰は耕作地に積もった雪に散布することで融雪効果を発揮する。有料の融雪剤を購入することなく、春の営農を早期再開できることでも農業に貢献できる。そして。灰はそのまま燻炭として土壌の通気性改善やpH矯正の効果もある。籾殻をエネルギー利用することで、米は食物、燃料、融雪剤、土壌改良剤とのべ4回の活躍ができるのである。

 CEB構想の実現にはバックアップ、需要変動対応や規制緩和など、籾殻利用にはクリストバライトという有害物を発生させない燃焼技術など、それぞれに多くの検討課題はあるが、固定価格買取制度(FIT: Feed-in Tariff)後を見据えた再生可能エネルギー利用の新たな仕組みとして実装を目指していきたい。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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