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宇宙活動法の成否は「手綱の引き具合」 ~官のリスクテイクが宇宙ビジネスの未来を左右~

2016年09月01日 齊田興哉


世界に遅れをとる日本の宇宙活動法
 宇宙開発において1960~70年代は、米国アポロ計画をはじめとした、国家同士による激しい進出競争の時代であった。この時期、各国の無秩序で自分勝手な宇宙利用を防ぐことを目的に、国連は加盟国の宇宙活動の責任を規定する宇宙関連の条約を制定した。それらは宇宙開発に携わる民間企業の活動にも関係するため、米国やフランス等の宇宙先進国では国内法として宇宙活動法を制定するようになった。現在では、ロケット等を保有しないノルウェーや南アフリカ等を含む10カ国以上が宇宙活動法を有している。
 1980年代以降、それらの国々において、民間企業によるロケット打ち上げサービスや通信衛星事業等が行われるようになったのは、宇宙活動法が大きく貢献している。各国にとって公平で適切なルールが官により整備されたことで、結果として民間企業にとっても公平な競争市場が生まれたからである。現在では、政府に協力しながら実力を蓄えてきた企業が自ら宇宙開発事業に乗り出すようになったほか、機会を見つけた新興企業が次々と宇宙ビジネスに参入してきている状況にある。
 一方、日本では自動車や電機等のように世界市場トップを争う企業が宇宙産業ではいまだ存在しないなど、30年以上前から宇宙活動法を有する各国に比べ、「宇宙の商用化」では大きく遅れている。宇宙航空研究開発機構(JAXA)による技術オリエンティッドな宇宙開発が長期にわたって集中的に進められてきた日本では、宇宙先進国と技術水準では肩を並べるようになったものの、民間主導の宇宙開発に寄与する宇宙活動法の必要性が認識されず、結果として宇宙ビジネスに挑戦する民間企業を育ててこなかった。

宇宙活動法への期待
 ようやく、日本でも宇宙活動法が国会で審議入りした。現在の案では、衛星等の打ち上げの「責任」と地球観測等を行うリモートセンシング記録の「管理」が骨子となっている。
 ロケット打ち上げをはじめとする宇宙事業には、失敗した場合に巨額の損害を被るリスクが伴う。そこで法案では、ロケット打ち上げ企業等に対し、技術や安全等の基準を設け、損害賠償保険の加入等を義務としている。一方、それらが参入意欲の妨げとならないよう、政府による補償支援策等も導入し、民間企業の負担を減らす。なお、衛星は宇宙から「のぞき見」できるため、情報の取得や活用の適正化を図る内容や情報セキュリティの厳しい基準が盛り込まれる見込みとなっている。
 低価格で汎用性の高い小型衛星の開発が進み、政府や大企業ばかりでなく、中小企業でも保有や利用がしやすくなってきた。小型衛星は、天候や交通状況をリアルタイムで提供したり、インフラ未整備地域や災害地にもブロードバンド環境を提供したりできることから、取得データのビッグデータ化による付加価値データの販売も含めた広範な活用が企業側から期待されている。今後は、様々な業種から技術系企業が参入し、技術・ノウハウの獲得や事業連携等を目的とした企業統合や買収が活発化するだろう。

官民ともに常にチャレンジングな姿勢を
 最近、米国連邦航空局FAAがベンチャー企業Moon Express社に対し、宇宙資源に対する探査事業として民間企業に世界初となる許可を出した。惑星探査機には、惑星への離着陸、惑星間移動、地球への資源リターン等の高度な技術と安全性が求められる。このケースでは、官がこれまでの衛星等では考慮不要であった新しいリスクをとったことがポイントである。また、この判断は官が民間企業の発展を支える必要性も考慮されている。
 日本でも、宇宙活動法の制定によって「条件さえクリアすれば宇宙ビジネスへの挑戦は自由」となるはずであるが、出来上がった法律が規制だらけの代物では同法本来の目的は得られない。宇宙の商用化での遅れをいち早く取り戻し、世界市場トップを争う企業を輩出するための法律とするには、米国のように官側による一定のリスクテイクを可能とするべきである。また、官民が連携して適切なリスク配分を探り、日本独自の「手綱の引き加減」を見極める試行錯誤が、産業振興のための法律として運用時にも必要である。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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