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日本総研ニュースレター 2016年8月号

自治体から仕掛ける企業の「CSV型事業」による地方創生

2016年08月01日 小林味愛


企業のCSV型事業による地方創生の必要性
 人口減少・高齢化が進行し、特に地方部では自治体財政の厳しさが増す中、自治体が主体となった旧来の公共事業の手法では、多様化・複雑化が進む地域課題を解決することが、財政およびノウハウの両面において困難になってきている。
 危機感を募らせる自治体の間には、企業の持つノウハウや知見を活用する必要性への認識も広がってきたが、実際には多くの自治体は「地域課題はビジネスではなく自治体主体の事業によって解決するもの」との意識から離れられないでいる。そこには、「収益を第一とする企業に地域課題の解決は任せられない」という「常識」が横たわる。
 しかし最近では、企業が利益を上げながら地域課題を解決していくCSV(Creating Shared Value)(※1)の概念を踏まえ、自治体と企業が協働して地域課題の解決を図る動きも見られるようになってきた。本稿では、自治体が企業に地域資源を活かした事業を行ってもらうことで、企業は収益を手にし、自治体は地域課題の解決を図れる、という仕組みを自治体が自ら創っていくための方法に焦点を当てる。

企業の経済的価値と地域課題の解決を同時に実現
 エタノールの製造・販売会社である株式会社ファーメンステーションでは、岩手県奥州市の米農家に栽培してもらう生産コストの低い多収米を原料に、エタノールを製造する事業を行っている。これは、減反政策などの影響で増加した耕作放棄地や休耕田の利活用が地域課題となっている奥州市役所との情報交換によって生まれたアイデアで、現在、この米エタノールは、化粧品をはじめとした様々なオーガニック商品の原料として販売されている。さらに、エタノールの抽出過程で発生する残渣も廃棄物ではなく資源の一つとして扱い、オーガニック石鹸の原料とするほか、飼料として地域の養鶏農家に無償提供するなどの利用を行っている。
 ここで着目すべきは、同社は奥州市の資源を活用することで安定的な原料調達やコスト削減を行い、収益を上げているのだが、結果としては様々な地域課題の解決にも寄与している点である。具体的には、地域の耕作放棄地の解消、米農家の所得向上、残渣の利活用による環境対策、雇用創出などの社会的価値を生み出している。
 同社はさらに今年から、福島県桑折町の未利用桃(廃棄または間引き対象の桃)を活用したボディミルクも商品化し始めた。同町でも奥州市でのような地域課題を解決する効果が期待される。

自治体による仕組みづくりが必要
 上記のように、企業が経済的価値を追求することによって、同時に地域課題も解決するCSV型事業は、財政が厳しく、事業ノウハウに乏しい自治体にとって、複雑化した地域課題の解決に打ってつけの方法といえる。しかし、現在は上記事例を含め、偶然に自治体と接点を持った企業がCSV型事業に結び付けることはあっても、自治体側から優先順位の高い地域課題を企業に解決してもらう「仕掛け」をして、多様な企業と協働する仕組みができているとは言い難い。
 企業の多くは地域で活用できる資源に精通していないため、自治体が主体的に企業に働きかけ、CSV型事業を実施しやすい環境を整えていくことが必要となる。
 しかし、自治体では以下のような課題を抱えている場合が多い。
 ①自治体が保有するどのような情報や統計がビジネスの現場でどのように必要とされるか分からないため、適切な情報を収集・集約し、タイミングよく提供できない。
 ②自治体(一部署)と企業との間で情報共有ができたとしても、CSV型事業を推進するために自治体組織全体を動かせるだけの庁内での連携体制に欠ける。
 これらの課題を克服するには、自治体と企業の両者の理論に精通し、橋渡しができる人材・組織を首長に極めて近い位置に設置することが不可欠である。そのうえで、自治体と企業が地域課題の現状を定期的に共有し、どのような事業での解決が可能か検討する場を設けるなど、自治体がCSV型事業を実施する企業を集め、協働する仕組みづくりを行っていく必要がある。
 地方創生の分野において、CSV型事業を推進する仕組みづくりは未だ発展途上である。持続可能な地方創生に向け、自治体による今後の積極的な取り組みが望まれる。

(※1)企業が社会課題を解決することを通じて自社にとっての大きな収益機会を獲得するという競争戦略のひとつ。ハーバード・ビジネススクールのマイケル・ポーター教授が提唱。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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