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未来洞察と中長期経営計画策定(下)

2016年10月28日 時吉康範


 前回、中長期経営計画策定に関する代表的な相談事項と企業の経営企画部門の課題認識を紹介し、未来洞察アプローチとの適合性を解説した。しかし、残念ながら、相談があった企業のうち支援することに至ったのは半数であったことを述べた。
今回、当該企業が中長期経営計画策定に未来洞察を導入したか否かの要因の考察を通して、企業の中長期経営計画のあり方を述べたい。

1.未来予測と未来洞察アプローチの違い

 まず、未来予測と未来洞察の違いを説明する。



 ほとんどの企業の中期経営計画は、「内部事実」から「現在の延長線」で、「定量」的データを重視し、ストレッチした経営目標を加味した上で、今後3年間の確度の高い「仮説」を作っている。
 すなわち、中期経営計画は、未来予測の特徴をある意味正しく反映して作られている。一方、企業ではまた、より短期間の未来予測で、より精度が求められる年度予算を毎年作成している。
未来「予測」の中期経営計画では毎回毎回あまり代わり映えがしないし、中期経営計画と年度予算の違いが対象期間のちょっとした違い(3年間と1年間)だけであれば年度予算ともあまり代わり映えがしない。
 このため、中期経営計画は作っても無意味と考え、作成しない企業すらある。

 未来洞察の導入の相談に来るのは、「中長期」経営計画を検討しようとする企業である。時間軸で言えば、5年後から15年後あたりの企業のあるべき、ありたい姿を描いた上で、そうした姿を実現するための施策を検討するもの(すなわち、バックキャスト)である。
 我々は、5年後から15年後を描くには、未来洞察の特徴にあるように、「普段自社が接していない外部の」「定性的な」「確実性が中庸な」情報を積極的に拾いに行き、「戦略オプションを考えられるだけたくさん導出する」進め方を提案している。

2.未来洞察導入の要因

 これらの特徴的な進め方を企業がどのように受け取るかによって、導入するか否かが違ってくる。

 未来洞察の導入に至っているのは、担当役員以上が未来洞察の提案を直接聞いて、これまでの中期経営計画の課題を解決する斬新な手法であると理解をしたトップダウンによる意思決定の場合だ。部課長クラスが提案を聞き、担当役員以上に説明するミドルアップの場合は、結局は導入に至っていない。
 未来洞察は、新しいアイデアがより求められる新規事業・新製品・新技術開発といったイノベーションに適しており導入実績も多い。特徴的な進め方に加えて、こうした実績も、未来洞察=イノベーション、新規事業、という誤解を生むことがある。このため、経営企画部門の部課長クラスが、社内の説明責任を果たしづらい手法、経営計画としては飛びすぎる不安がある手法と思ってしまうと導入には至らない。
 また、コンサルティング会社を活用した経験がある企業の方が未来洞察を導入している。今まで、様々なコンサルティング会社から話を聞いたり、活用したりといった経験があるが、コンサルティング会社の活用のメリット違いがコンサルタントの常駐による「中(長)期計画作りの手間のアウトソーシング」以外に見いだせなかった(見いだせないように思えた)企業が、未来洞察の導入に至っている。

 企業の要望に合わせて我々も、未来洞察の特徴を活かしつつ未来洞察の中で未来予測の要素を可変的にしてバランスを取ったり、経営戦略のフレームワークを織り込んで中期経営計画との連動を図ったりしている。
 それでも、どうしても年度予算や中期経営計画と中長期経営計画を同じように考えてしまう企業はある。未来と言いつつ現在を語っているだけの、代わり映えのしない中長期経営計画(や経営ビジョン)を前にして、何年か後に「何のために中長期計画を作ったのか」という不毛な議論を生まないことを願う次第である。
以上


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません
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