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Business & Economic Review 2012年9月号

研究開発投資における「規模効果」に関する実証分析-「シュンペーターの命題」は実際に成立しているか

2012年08月24日 新美一正


要約

  1. 特許やソフトウェアに代表される無形資産(インタンジブルズ)は、有形固定資産(工場設備など)に代わり、近年、企業価値の主要なドライバーの地位に上り詰めつつある。最近では、代表的な無形資産投資活動である研究開発投資の規模効果─研究開発投資がもたらす経済的な利益と企業規模との関係性に関する分析─が研究者の注目を集めるようになってきた。


  2. 研究開発投資における規模効果(大企業の優位性)という概念自体は、古くShumpeter[1942][20]にルーツを持つ歴史的なものである。この古い命題が再び脚光を浴びつつあるのは、近年、代表的な研究開発投資志向型業種である製薬業において、国際的な企業合同やM&Aの拡大を背景に、企業規模の拡大と研究開発投資の効率性との間の関係性が実務的に注目されるようになった点が大きい。しかし、「大企業病」という言葉に代表されるように、企業組織の肥大化はむしろ研究開発投資の効率性の低下要因であるという意見も根強い。実証研究もまた、この問題意識に明確な決着をつけるには至っていない。


  3. 最近、公刊されたCiftci and Cready[2011][3]は、操業規模が大きい企業ほど、研究開発投資がもたらす将来利益が大きくなること、研究開発投資集約度と将来利益の変動性との関係性では、規模の大きい企業の研究開発投資ほど利益変動性に対する感応度が低下すること、さらに研究開発投資集約度と株式の将来リターンとの関係性では、研究開発投資の将来利益の規模効果が、ディフォルト・リスクの低下を通じて、期待株式リターンの低下をもたらすこと、の三点を北米企業の財務データを用いて確認することに成功した。


  4. 本稿では、このCiftci and Cready[2011][3]に触発される形で、国内上場企業を分析対象として、研究開発投資における規模効果の存在に関する実証的な検証を行った。具体的な検証仮説は以下の三つである。

    (1)研究開発投資がもたらす将来利益は、企業規模が大きくなるほど増加する。

    (2)研究開発がもたらす将来利益の変動性は、企業規模が大きくなるほど減少する。

    (3)研究開発投資がもたらす株式の将来リターンは、企業規模が大きくなるほど低下する。

    実証分析の結果、仮説1に関してはこれを支持したものの、仮説2および仮説3については全般的に仮説と対立的な結果が得られた。


  5. 利益水準とは異なり、利益変動性や株式リターンに関して明確な規模効果が観察されなかった理由としては、分析対象期間における厳しい企業経営環境を反映して、「選択と集中」原理による研究開発投資の選別が進んだことが、意図せざる形で、大企業の優位性の源泉であった経営多角化によるリスク分散軽減効果を喪失させてしまった可能性を指摘できよう。
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