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Business & Economic Review 2012年7月号

【特集 アジアの銀行の発展に向けて】
ベトナムにおけるリテール金融の将来性を探る

2012年06月25日 岩崎薫里


要約

  1. ベトナムでは商業銀行の歴史が浅いうえ、何らかの銀行取引のある人の割合は全人口の10~20%にすぎず、個人と銀行とのかかわりがいまだ希薄である。もっとも、都市部に着目すると個人の銀行利用は急速に拡大している。都市では所得の増加とともに人々の生活にゆとりが生じ、余剰資金を銀行に預ける一方、ローンを組んで住宅を購入したり、借り入れを通じて消費を先取りしたりする動きにつながっている。


  2. 一方、銀行側でもリテール金融に着目するようになっている。顧客となり得る層が拡大し、業務としてのうまみが増したという要因が大きい。彼らを取り込むことで、それまでの法人取引偏重を是正して収益源を多角化し、収益の安定的な確保とリスクの分散を図ることが可能になる。銀行は近年、リテール金融のなかでもとりわけ預金の獲得に注力してきた。企業の旺盛な資金需要に応えるために、融資の原資として預金を調達する必要性が高まったことによる。その主な手法は預金金利の引き上げであるが、それ以外にも窓口でのサービスの向上、支店やATMの増設などが積極的に行われている。


  3. 多くの銀行が基本的な預金商品を提供するにとどまるなか、一部の先進的な銀行は付加価値のより高い預金商品を提供したり、顧客セグメントに応じて異なる商品を提供したり、さらには資産運用業務を手がけたりし始めている。それによって金利競争からの脱却や非金利収入の安定的な確保、さらには優良顧客の囲い込みを狙っている。とりわけ高所得者層を取り込むことは預金の獲得という観点から重要であり、各行とも力を入れている。


  4. 一方、個人向けローンについては、銀行はさまざまな商品を提供するようになっているが、依然として住宅ローンのシェアが圧倒的に多い。住宅ローン自体、従来に比べると拡大しているものの、一般の人々の間で広く行き渡っているわけではない。個人向けローンがいまだ本格始動しないのは、以下の二つの阻害要因があるためである。

    第1に、個人信用情報の不備である。1999年に信用情報センターが創設され、データが徐々に蓄積されているものの、絶対数が依然として限定的であるうえ、誤りがあったりデータの更新が遅れたりするなど課題が多い。
    第2に、個人の所得を正確に把握することが困難である。これは、勤務先企業が発行する所得証明書の改ざんが横行しているためである。また、海外在住のベトナム人(越僑)からの送金収入や、本業とは別に副業からの非公式な収入が少なからずあることも影響している。


  5. こうした事情から、銀行は個人向けローンを提供するに当たり、高いローン金利の設定、厳格な融資審査、担保の徴求、収入にかかわる複数のエビデンスの収集、自宅への訪問など、信用・所得情報の不備を克服するためのさまざまな工夫を行っている。このため、1件当たりの融資審査に要する労力は甚大とならざるを得ず、ローンの供給制約要因となっており、逸失利益が生じているとみられる。一方、個人の側に立つと、本来であれば借り入れを受けられるはずの層でも受けられておらず、親戚・知人などからの制度化されない金融に依存する要因になっていると考えられる。
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