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Business & Economic Review 2012年7月号

【特集 アジアの銀行の発展に向けて】
マレーシアの金融部門ブループリント2011─2020の意味-高付加価値・高所得経済の実現に向けた銀行部門の課題

2012年06月25日 清水聡


要約

  1. マレーシアでは、97年のアジア通貨危機に際して不良債権処理や銀行再編が実施された後、2001年に金融部門マスタープランが発表され、外国銀行と十分に競争できる地場銀行の育成を目標に金融改革が推進された。これにより、銀行の健全性や収益性が大幅に向上したほか、金融資本市場の拡大、金融インフラの整備、中央銀行による規制監督体制の整備などが進んだ。銀行部門の発展度は域内では高水準に達しているものの、市場が必ずしも大きいとはいえず、銀行間の競争が激化している。


  2. 2011年12月、新たな10年計画となる金融部門ブループリント2011-2020が発表され、銀行部門の一層の整備が図られることとなった。ブループリントには、銀行部門を中心に金融部門の多岐にわたる課題が示されている。その背景にある状況認識として重要なのは、世界金融危機以降、アジア経済のプレゼンスが高まっており、各国の内需拡大の加速とともに域内経済統合の進展が見込まれることである。また、実態的な経済統合の進展に加えて、域内では2015年までにASEAN経済共同体を構築することが目標となっている。これにより統合の機運が高まるとともに、域内金融統合の重要性が増している。ブループリントの目的は、こうした経済の動きに金融部門がどのように貢献するかを示すことであり、その課題は「国内」、「域内」、「国際」の観点に分けられている。


  3. 「国内」の観点からの課題は、第1に、高付加価値・高所得経済を実現するための金融仲介機能の拡充である。政府は、投資を中心とする内需主導の成長により2020年までに一人当たり国民所得を15,000ドル以上に引き上げ、高付加価値・高所得経済を実現する計画であり、銀行部門には適切な金融仲介によりこれを支援することが求められる。国際経済環境が厳しさを増すなかで、内需の拡大や生産性の向上は海外経済・金融情勢の不安定化の影響を軽減するために極めて重要であり、これを支援する金融システムの役割も重要性を増している。具体的には、新規産業支援やインフラ金融、企業活動の支援、年金商品や富裕層向けビジネスなどが、取り組み項目としてあげられる。第2に、金融資本市場の整備である。国内短期金融市場・外国為替市場・資本市場の整備により、金融仲介機能の拡充や企業・個人のクロスボーダー活動の支援に貢献することが期待される。第3に、金融包摂(financial inclusion)の促進と消費者保護の強化である。経済成長の促進や所得格差の縮小のため、金融サービスを受けられない人や地域を減らすことが求められる。また、金融包摂の観点に加え、銀行間の競争激化とともに消費者が過剰な金融サービスを受ける危険性が高まっていること、消費者ニーズの多様化により複雑な金融商品が増加しており金融商品の透明性確保が不可欠となっていることなどを受けて、消費者保護の強化が重要となっている。


  4. 「域内」の観点からの課題は、域内経済・金融統合への貢献である。シンガポールやマレーシアの銀行は、海外業務の拡大により域内金融統合の担い手となり、企業や個人のクロスボーダー活動を支援することが期待される。また、外国金融機関のマレーシア国内市場への参入も、マレーシアの企業・個人のクロスボーダー活動の支援に資すると考えられることから、地場銀行との競争に配慮しつつ、段階的に自由化していく必要がある。さらに、金融当局が域内金融協力に積極的に関与し続けることも不可欠である。


  5. 「国際」の観点からの課題は、イスラム金融の発展と国際化である。国内金融部門の安定性の向上やクロスボーダー取引の拡大などのために、イスラム金融が果たす役割は大きい。イスラム金融に対する需要は世界的に高まっており、マレーシアを重要なセンターとしてイスラム金融の国際化が進展することが期待される。そのためには、クロスボーダー金融取引を効果的・効率的に仲介すること、イスラム金融の人材開発センターとしての役割を強化すること、良好な国内環境を構成している税制・外国為替管理政策・金融インフラを維持・強化することなどが必要となる。


  6. 銀行部門の健全性の強化は着実に進められてきたが、国際金融情勢の不安定化に伴い、国内金融部門におけるリスクも増している。こうしたなか、規制監督枠組みの一層の強化が不可欠である。法的枠組みを整備すること、リスクベースの監督体制を強化すること、問題銀行に対する中央銀行の早期介入権限を強化することなどが求められる。また、金融部門が拡大するとともに、金融機関のガバナンスやリスク管理、市場規律などの役割が重要性を増している。さらに、海外との金融面の結び付きが強まることを前提とした規制監督体制の構築が不可欠である。
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