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Business & Economic Review 2012年7月号

【特集 アジアの銀行の発展に向けて】
インドネシアにおける金融包摂促進に向けた取り組み

2012年06月25日 星貴子


要約

  1. インドネシアでは、低所得者や中小零細企業・個人事業者を中心に金融サービスを利用できない(しない)個人や事業者が全体の6割以上を占める。金融サービスが利用できないために、金融資産の形成のみならず生活や事業に必要な資金の効率的な調達が容易でないとみられ、こうした個人や事業者では、金融サービスを利用した生活の向上や安定、事業拡大や収益向上などは期待薄である。こうした状況が持続すれば、貧困層や零細企業が現状のまま取り残され、底辺層の固定化による貧富の拡大、地域格差の拡大が招来される可能性が大きい。さらに、格差拡大によって、同国の社会不安が増大する危険性もある。このような経済格差の拡大、社会不安の下では、経済の持続的な成長は期待薄である。こうしてみると、低所得者や中小零細企業・個人事業者が金融サービスを利用できるようにすること(金融包摂:Financial Inclusion)は、インドネシア経済の更なる成長、およびその持続に不可欠な要素といえよう。


  2. 多くの人が銀行サービスを利用できない状況(金融排除(Financial Exclusion))の主な背景としては、貧困に加え、①銀行への物理的アクセスが不便、②銀行サービスの利用コスト(銀行までの交通費や取引手数料など)負担が大きい、③銀行にとって顧客情報が不足している、④国民の金融リテラシーが低いなどが指摘されている。

    こうした課題の解決に対して、インドネシア政府は、中小零細企業に対する信用保証制度の拡充、義務教育での金融教育の推進や少額貯蓄制度の導入など、金融包摂の促進に向けた政策を相次いで打ち出している。加えて、銀行部門の取り組みを加速させるために、銀行、とりわけ庶民信用銀行(BPR)の財務基盤の強化を目的とした商業銀行との連携プログラムの普及を推進している。


  3. 一方、銀行部門をみると、独自のビジネスモデルを構築して、サービス提供にかかるコストの高さや人材不足などのボトルネックとなっている課題を解決し、積極的に低所得者や中小零細企業・個人事業者向け金融サービスを提供する商業銀行がでてきた。こうした銀行では、既存の小口金融専門窓口のほか、代理店や自動車による移動店舗(巡回店舗)を活用することで施設の設立・導入や運営などにかかるコストを節減するとともに、人材育成を徹底することで顧客との密接なリレーションシップを維持し円滑な金融サービスの提供を図っている。さらに、最近では、金融排除の背景である物理的なアクセスの悪さを解消するために、低所得者や中小零細企業・個人事業者向け金融サービスにも、モバイルバンキングを導入する銀行がでてきた。


  4. もっとも、政府による取り組みは緒についたばかりである一方、銀行部門においては、低所得者や中小零細企業・個人事業者向け金融サービスの拡充の動きは未だ一部の大手銀行にとどまる。今後、銀行サービスを利用する環境を整備し、金融包摂を促進するために必要とされる主な取り組みとして、次の3点を挙げることができる。

    第1は、代理店や移動店舗、モバイルバンキングの活用など、サービス提供体制の拡充である。もっとも、これらの導入にかかるコストは少なくないとみられることから、すでにサービス提供網が構築されている少額貯蓄制度の枠組みを活用することも一案と思われる。

    第2は、銀行にとってボトルネックとなっている借り手の信用力等に関する情報の非対称性の緩和である。具体的には、銀行が企業の業況や損益に関する情報を入手できるように借り手がこうした情報を提供できる環境を整備することである。このためには、納税や会計システムを整備し事業者を幅広く同システムの枠組みに取り入れ、基準に則った財務諸表や納税証明(収入証明)など借り手の財務状況を客観的、かつ明確に判断できる資料を作成することなどが考えられる。

    第3は、銀行の与信審査力の強化・拡充である。具体的には、政府と銀行業界が連携し与信審査に関するガイドラインを作成、普及させるとともに、庶民信用銀行(BPR)と商業銀行との間で進められている資金協力を目的としたリンケージプログラムを拡大し、商業銀行・BPR間でのノウハウの提供や人材交流を促進させることなどが考えられる。
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