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Business & Economic Review 2012年5月号

「利益の質」分析への新しい視点-経営者の投資に関する意思決定からのアプローチ

2012年04月25日 新美一正


要約

  1. 従来の利質分析に関する研究アプローチは、開示された会計情報に基づき、減価償却費などのnoncashな資金の流れ(いわゆる会計発生高)における経営者の裁量的行動に注目する方法と、株価から経営者の裁量的利益調整行動に関する情報を抽出する方法とに二分されてきた。しかし、経営者の裁量的利益調整に関する情報が、会計数値と株価のみにすべて反映されるとは考えられないから、これらとは異なる分析視点に立って新たな利質尺度を考案する意義は大きい。

  2. 以上の問題意識に沿って、近年、Li[2007][7]、およびLi[2011][8]は、経営者による実際の投資行動に関する意思決定に基づく、新しい利質尺度を提案している。この新しい利質尺度概念の中核的なアイディアは、経営者が将来の期待収益性に関して最も正確な情報を持つ、ということを前提にして、報告利益変化に対する投資支出額変化の関係性に基づく利質尺度を考案した点にある。さらに彼は、北米企業を対象にした実証分析を行って、この投資ベース利質尺度が従来、用いられてきた利質尺度とは異なる情報集合を反映して形成されていること、および、利益の持続性との相関性の高さやそれに伴う利益予測力の大きさなど、投資ベース利質尺度が実務的にみても相応な有用性を持つこと、など興味深い報告を行っている。

  3. 本稿では、これらLiの先行2論文に触発される形で、わが国上場企業の直近5決算期財務データを利用して、投資ベース利質尺度を導入する意義、および実務的な有用性に関して実証的な検討を行った。以下ではその概要を報告する。

  4. まず、投資ベース利質尺度が理論・実務的有用性の両面において導入の意義を持つためには、A.それが従来、用いられてきた利質尺度とは異なる情報内容を捉えていること、B.利益の持続性との間で正の相関関係を持つこと、さらにC.利益の持続性に対して、コンベンショナルな利質尺度と比較しても遜色ない説明力を持つこと、の3点が満たされる必要がある。本稿の実証分析結果は、いくつかの留保点はあるものの、これら三つの条件がおおむね満たされていることを明らかにした。ただし、本稿の分析で検出された、将来利益に対する予測力に関する投資ベース利質尺度の増分的な説明力の水準は、Li[2011][8]のそれと比較してジャンプして小さくなっており、全体に利益変動と投資支出額変化との関係性が希薄化している兆候が見られる。この原因としては、本稿で設定された分析対象期間が、企業を取り巻く外部環境が非常に悪化し、企業経営者の投資マインドが低迷している時期に当たることを指摘できるかもしれない。

  5. 次に、投資ベース利質尺度の実務的な有用性に関して追加的な検証作業を行った。具体的な検討対象はA.過剰投資と投資ベース利質尺度の関係性、B.投資強度と投資ベース利質尺度の関係性、およびC.利益変動・損失発生と投資ベース利質尺度の関係性、の3点である。残念ながらこれら三つの分析テーマに沿って設定された仮説の検証に対しては、首尾一貫した結果を得ることができなかった。もちろん、本稿における実証結果から、投資ベース利質尺度そのものや、それを用いた実証分析の枠組み自体が無効であると軽々に結論付けることは不適切であろう。むしろ、利益変化と投資支出額変化との間のシステマティックな対応関係が揺らいでいる分析期間においてさえ、投資ベース利質尺度が、利質尺度として備えるべき性質をある程度保持しているという実証結果が得られたことに注目すべきであろう。
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