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Business & Economic Review 2012年4月号

「住民主導のまちづくり」に向けた支援の在り方-被災地の事例を参考に

2012年03月23日 高坂晶子


要約

  1. まちづくりの進め方が、従来の「中央省庁、行政主導」から「地域社会、住民主導」へシフトすることが求められている。背景には、①公共事業や工場誘致といった外部資源導入型の地域活性化が限界に達し、地域資源の活用が必要となった、②少子高齢社会のもと、中心市街に機能集約して都市経営を効率化するためには、住民の生活空間の見直しが必要となった、等の事情がある。2000年代入り以降は、法制面で「まちづくりへの住民参加」を制度化する動きも目立ってきた。


  2. もっとも、制度化されたために、かえって参加が形式的なものに陥っているケースが多見されるほか、その他の事例を見ても、まちづくりにおける住民参加は必ずしも活発とは言えない状況である。障害となっているのは、①住民が政策形成を行政任せにする傾向が根強い、②まちづくりには複雑で専門的な規制や制度が多数存在し、理解に大きな困難を伴う、③住民同士で討議する習慣が乏しく、合意形成に習熟していない、等の理由である。


  3. 他方、「住民が問題状況を理解し、討論によって納得と合意に至る」プロセスをないがしろにすることは事後的に問題が生じることが多い。阪神大震災の際には、住民参加を形式にとどめ、実質的には行政や専門家主導のまちづくりを急ごうとした結果、かえって深刻な紛糾が生じて地域社会の安定が失われる事態が見られた。


  4. 以上のことから、住民自身が主体的にまちづくりに参画し、自己責任、自己決定によって合意形成する能力を高める取り組み=「キャパシティ・ビルディング(以下CB)」が極めて重要といえる。ただし、CBを住民の自助努力のみで行うことは現実的に難しいため、専門家による能力向上支援活動が望まれる。


  5. コミュニティの再生・復興という意味で、まちづくりが緊急課題となっている東日本大震災の被災地では、住民に対するCB支援活動の先駆的事例がみられる。その主体は、大学教員のネットワークを母体とする支援組織「アーキエイド」であり、建築・地域デザイン分野の専門知識を活用し、被災住民主導のまちづくりを支援している。具体的には、石巻市牡鹿半島に点在する30集落で野外調査と住民からの聞き取りを行い、各集落の実情に基づく素案を作成した。これを模型上で可視化したうえで、住民から再度の聞き取りと改定案への反映を繰り返した。このような支援活動の結果、住民間の合意形成が促進され、地域社会の意見・要望を集約した復興提案が作成可能となった。


  6. アーキエイドがCB支援を行ううえでの強みとしては、大学を核とした活動である点があげられる。具体的には、①建築・デザイン分野の専門人材の調達が容易、②豊富なマンパワーによりきめ細かい対応が可能、③大学を核とするネットワークを通じて、広範な外部組織(国際機関、行政組織、研究機関、NPO等)からの支援・資源の調達が容易、④大学当局との連携が可能、である。一方、課題としては、①建築・デザイン分野中心であり、行政・法務・金融等まちづくりに必要な他の専門分野との連携構築が不十分、②組織運営、活動資金等の面で存続可能性に疑問が残る、等があげられる。


  7. 上記事例から、CB支援の普及、定着を促すのに有効と思われる取り組みは、次の3点。①支援活動に参加する人材を増やすため、学校や企業にボランティア休暇や社会体験研修を導入したり、活動実績を成(業)績評価に組み入れる、②CB支援組織のデータベース化と情報提供を進め、支援の必要な地域住民とのマッチングや、行政・法務・金融等まちづくりにかかわる他分野の専門組織との連携を斡旋・仲介する、③将来的には支援組織の経済的自立を目指すことが望ましいものの、わが国でのCB支援の黎明期に当たる当面については、組織の存続可能性を高める措置、具体的には公的助成や支援組織への寄付者に対する税制優遇等の仕組みを導入する。


  8. 今後、被災地以外の地域でも、コンパクトシティ化や経年マンションの建て替えなど、様々なかたちでコミュニティ内の合意形成の重みが増す事態が予想される。そうした広い意味での「まちづくり」に関与する住民に向けたCB支援の必要性が一層高まる可能性は高く、支援活動の広がりと、そのための環境改善と基盤強化が望まれる。
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