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Business & Economic Review 2012年3月号

【特集 中国経済成長モデルの脆弱性】
中国の社会安定化と発展モデル転換を阻むインフォーマル・セクターの拡大

2012年02月24日 三浦有史


要約

  1. 所得格差の是正は第11次五カ年計画(2006~2010年)で示された「和階社会」(調和のとれた社会)の実現に不可欠な課題とされたにもかかわらず、格差が縮小したことを示すデータはない。都市農村間の所得格差および都市内の所得格差の拡大により、中国は世界で最も格差が大きいグループに属すようになった。格差は社会の安定性を左右する問題である。しかし、それは社会の安定性に影響を与える説明変数の一つに過ぎない。より重要なのは、私営企業や自営業といったインフォーマル・セクターの発展可能性とそこで就業する農民工の生活満足度によって規定される格差に対する寛容度である。


  2. 近年、中国政府内でも社会の階層化に関する議論が積極的になされるようになった。背景には、インフォーマル・セクターとフォーマル・セクターの二極化が鮮明になってきたことがある。中国ではインフォーマル・セクターが国有企業や外資企業と競争できる環境にないため、いつまでも小規模・零細にとどまり続け、そこで就業する農民工の賃金は都市戸籍保有者に比べ低いため、所得格差が縮小しない。政府は2010年から最低賃金の大幅な引き上げを図ったものの、フォーマル・セクターの就業者の賃金の上昇率が最低賃金のそれを大幅に上回る一方、インフォーマル・セクターの就業者のほとんどは都市の公的保険に加入しておらず、生活基盤は依然として脆弱であるため、彼らの格差意識は益々先鋭化すると思われる。


  3. 直近の経済指標を見る限り、現段階で中国が成長率の低下→失業率の上昇→社会の不安定化という状況に陥るとは考えにくい。しかし、それらの指標はインフォーマル・セクター、つまり小規模・零細企業を集計の対象としていない。中国の安定性を見極めるには、経済の底辺を構成している小規模・零細企業に目を向ける必要がある。2008年に実施された『第二次経済センサス』(以下、センサス)で、企業法人を所有形態別に分類すると、私営企業が企業数、就業人口のいずれにおいても最大のシェアを占める。製造業は企業法人の中核をなす存在であるが、そこでも私営企業が企業数、就業者数ともに最も多い。


  4. 私営企業は企業数、就業者数ともに製造業に占める割合が高いにもかかわらず、規模が小さいため、工業統計においてはそのほとんどが集計対象とならない。中国は大企業支配型の企業構造を有しており、工業は私営を中心とする小規模・零細企業と国有や外資を中心とする中大規模企業に二分され、後者が中国の工業を支配している。私営企業に自営業を加えたインフォーマル・セクターのおおよその全体像を把握すれば、第二次および第三次産業の全就業者の半分が小規模・零細の私営企業ないし自営業で就労している計算になる。


  5. センサスの分析を通じて分かることは、都市労働力市場が戸籍によって分断されているように、企業も所有形態によって置かれた競争環境が異なるため、企業規模や集中する業種に大きな差が生じるということである。このため小規模・零細の私営企業や自営業が付加価値や就業人口における割合を増やしたからといって、それが必ずしも市場経済化の順調な進展を意味するとは限らない。


  6. 中国はインフォーマル・セクターの拡大に伴い不安定化しやすい社会構造になりつつある。ユーロ圏の債務危機を受けた世界経済の減速と金融引き締めによる中小・零細企業の経営難はやがて雇用情勢を悪化させ、社会を不安定化させるのであろうか。2009年の都市農村別、所有形態別、地域別の雇用構造の変化をみると、沿海都市部の自営業が極めて伸縮性の高い雇用の調節弁として機能しているため、当面、その可能性は低いようにみえる。


  7. しかし、インフォーマル・セクターの付加価値や雇用に占める規模の大きさと企業としての経営基盤の脆弱さの対比が鮮明になるのに伴い、社会の安定性維持という課題が重要性を増すことは明白である。現在の安定はインフォーマル・セクターとそこで就業する農民工を犠牲にして得られた一時的なものであり、持続性が高いとはいえない。次期指導部は物価の安定やインフォーマル・セクターのフォーマル化などの難題を抱えており、社会の安定性を高めるという政治目標と経済発展モデルを転換するという経済目標の両立は容易ではない。
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