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Business & Economic Review 2012年3月号

【特集 中国経済成長モデルの脆弱性】
中国の不動産価格の動向と展望-金融システムへの影響と構造的問題点

2012年02月24日 坂本達夫


要約

  1. 中国では2009年以降、都市部の不動産価格が急上昇し、2010年初めには「不動産バブル」が懸念される状況となったものの、政府が住宅を中心とした不動産価格抑制策を打ち出した結果、その上昇に歯止めが掛かった。一方で、今後全国的に不動産価格が大幅に下落すれば、銀行の不良債権が増大し、中国の金融システムや実体経済に大きな影響が及ぶ可能性がある。


  2. 住宅価格は所得対比でみても上昇しており、一部の地域では「不動産バブル」の様相を呈している可能性がある。もっとも、中国では今後も高い所得の伸びが続くと期待されること、多くの都市で都市人口比率の上昇が予想されること、地方政府がその下落を回避したいとの意図を持っていることを勘案すると、全国的に不動産価格が下落する可能性は小さい。また、不動産価格に一時的な調整があったとしても、不動産価格の下落余地は限られる。仮に、所得水準の向上を超えた住宅価格の上昇分が、投資目的の購入を抑制する不動産価格規制等の影響により剥落した場合でも、全国的に住宅価格の下落は10~20%程度にとどまる。むしろ、多くの都市では今後も経済成長に伴い、不動産価格の上昇が続くと見込まれる。


  3. 銀行の不動産向け融資は増加しているものの、住宅ローンについては住宅購入時の頭金比率の高さから不良債権化のリスクが低いと考えられる。一方で、地方融資平台向け融資は、金額の実態が不透明なうえ、一部企業の経営悪化が表面化しており、不良債権の増大が懸念される。もっとも、不動産向け融資や地方融資平台向け融資が不良債権化しても、現在の中国の銀行部門の健全性は高く、損失を吸収できるだけの財務力がある。また、日本やアメリカと違い、中国においてバランスシート調整が長引く可能性は小さい。


  4. 現在中国の銀行部門が健全性を維持している要因として、中国が高成長を続けていることが大きいと考えられる。高い経済成長を実現している間に、金融危機等の不測の事態を回避するため、家計部門の資金運用や銀行部門の貸出行動等における脆弱な金融構造を改善しておく必要がある。効率的な資金配分の実現には、金融資本市場の自由化が必要であるが、当面は政府が銀行業に関して大胆な規制緩和に踏み切るとは考えられない。中国の金融システムにおいて、将来の不動産価格の不安定化をもたらす構造的要因が改善されるまでには、まだ長い時間を要するだろう。
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