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Business & Economic Review 2012年2月号

【特集 最適なわが国エネルギー需給体制の構築を目指して】
わが国の電力需要見通し

2012年01月25日 藤山光雄


要約

  1. 2011年3月に発生した東日本大震災後、わが国では原発の安全性に対する懸念が大きく高まった。これを受け、原子力を基幹エネルギーと位置付けていたわが国のエネルギー政策は見直しを余儀なくされている。新たなエネルギー基本計画の策定をめぐっては、震災後の電力供給制約を受け、原発代替電源の在り方など供給面からの議論に注目が集まりやすいものの、その前提となる電力需要の先行きをどう考えるかという視点も極めて重要な要素となる。本稿では、最終エネルギーのうち電力に焦点を当て、中長期的な需要動向のシナリオ作成を試みた。


  2. わが国の電力消費は、GDPの伸びに連動して増加してきた。電力以外のエネルギー消費の伸びが頭打ちとなった1990年代後半以降も、家庭部門および業務部門を中心として、電力消費の増加が続いた。


  3. もっとも、2030年までのわが国の電力需要を部門ごとに試算すると、家庭部門および業務部門を中心に、全体として緩やかな減少が見込まれる。まず、製造業の電力需要は、産業構造の変化が下押しに作用するものの、生産が緩やかに増加するもとで、おおむね横ばいの推移が見込まれる。家庭部門および業務部門では、①家電製品やOA機器の普及の一巡、②わが国の人口減少社会への転換、③企業・消費者の震災後の節電に対する意識の高まり、などから減少に転じる公算が大きい。一方、運輸部門では電気自動車やプラグイン・ハイブリッド車の普及が、需要押し上げに作用する。以上の試算結果を総合すると、2030年度の電力需要は2010年度対比▲10~▲15%となる。


  4. 本稿の試算結果は、現行のエネルギー基本計画を前提とした経済産業省の見通しに比べ下振れている。同見通しでは、経済成長や電化率の上昇に伴い大幅に電力需要が増加する一方、効率改善により需要増加分とほぼ同量を削減することが想定されている。同見通しの需要推計は、震災後の情勢が加味されていないことを差し引いても、わが国が人口減少社会を迎えるなかで過大であった可能性がある。一方、効率改善策については、総じて本稿試算における前提に比べ踏み込んだ施策が想定されている。こうした施策の実現を前提とすれば、本稿で試算結果として示した需要減少見通しを上回る需要削減も可能と考えられる。


  5. 震災後、電力供給制約が強まるなか、これまで以上に需要面からの分析・展望を加味して将来の電力需給を考える重要性が高まっている。2012年夏をめどに策定予定の新たなエネルギー基本計画における電力需要見通しでは 供給サイドの議論に偏ることなく、実勢に即しつつも意欲的な需要見通しと、それを実現するためのロードマップの提示が望まれよう。
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