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Business & Economic Review 2012年2月号

【特集 最適なわが国エネルギー需給体制の構築を目指して】
エネルギー需給環境を考慮したわが国温室効果ガス排出量推計

2012年01月25日 藤波匠


要約

  1. わが国では、原子力発電所のトラブルにより、京都議定書の目標(2008~2012年度の平均温室効果ガス排出量(以下「排出量」)を1990年比▲6%)の達成に黄色信号が点灯している。京都議定書は、わが国が批准した国際条約であり、原発トラブルにより厳しい状況にはあるものの、その目標達成を避けて通ることはできない。
    加えて、わが国ではCOP17で合意された「延長京都議定書」への参加見送りの方針が固まりつつある。延長京都議定書への参加を見送ることで、国民の省エネ意識や産業界における技術革新の停滞が懸念される。とりわけ、国際競争上のわが国の強みとなっている高いエネルギー効率や低炭素技術の分野で、諸外国に対する優位性の低下が危惧される。


  2. こうした状況を受け、現在、エネルギー基本計画の見直し作業のなかで、京都議定書の達成可能性を含め、中長期の地球温暖化対策の在り方について議論が行われている。本稿では、こうした議論の一助とするべく、短期および中長期の排出量を試算し、それをもとに、今後の対応について検討した。


  3. 福島第一原発のトラブルによって、わが国の排出量の見通しは上方修正を余儀なくされている。比較的容易と考えられていた京都議定書の削減目標の達成は予断を許さない状況となり、2020年を目途とする中期削減目標も見通しづらい状況となっている。


  4. 京都議定書の削減目標の達成可能性を探るに当たり、①原発は2012年に全機停止、②電力不足をカバーするため2011年度上半期と同等の節電の継続、を前提として、2012年度までのわが国排出量を試算した。その結果、森林吸収源対策などを加味しても、▲6%の削減目標に対し、2%分が未達となり、1.3億トンの追加削減が必要となる。そのため、排出枠(排出クレジット)の獲得や更なる省エネなどの対策が重要となろう。


  5. 足元の経済情勢や省エネ対策の進展を前提として試算した、2013年度以降の真水の排出量(京都メカニズムなどを含まない実排出量)は、減少基調で推移し、2017年度に12.5億トン(1990年比▲1.1%)、2020年度に11.9億トン(同▲5.7%)、2030年度には10.2億トン(同▲18.9%)となる。2020年度以降であれば、更なる削減策を推進する時間的余裕があることから、より踏み込んだ削減目標の設定が可能となり、排出クレジットの獲得分も含め、2020年度以降で▲15%、2030年度で▲25~▲30%の削減も視野に入ってくる。


  6. 試算の結果、京都議定書の約束期間を含め、当面の真水の排出量は、原発事故以前に想定していた水準に比べ高くなることが見込まれる。たとえ延長京都議定書に参加したとしても、京都議定書における90年比▲6%よりも踏み込んだ目標設定は難しい状況となろう。そうしたことも、わが国が延長京都議定書への参加を見送る一因となっている。しかしながら、国民の省エネ意識の向上や産業界における技術革新を促すために、2020年までの期間において、自主的なものではあっても、国内削減目標や省エネ目標を設定することが望まれる。とくに、省エネや排出削減に向けた弛まぬ技術革新によるわが国国際競争力の維持、向上を促すためには、政府支援のもと、産業分野における省エネ対策の促進が重要となる。


  7. 一方、中長期的にはエネルギー需要の減少を背景に排出量の大幅な削減が見込まれることから、2020年度以降の新たな枠組みでは意欲的な削減目標の設定が可能である。すべての主要排出国が削減義務を負う新たな枠組みの構築に向け、国際的な協議の場での積極的な働きかけが望まれる。
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