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Business & Economic Review 2012年1月号

委員会設置会社のパフォーマンス分析

2012年01月04日 新美一正


要約
要約

  1. 1990年代末から、わが国のコーポレート・ガバナンス制度改革は、想像以上の急ピッチで進行した。この改革の方向性は、一言でいえば「株主主権の確立」という目標に集約できる。しかし、こうした株主主権志向の制度改革は、初期段階こそ、企業と種々の利害関係を持つ諸ステーク・ホールダー間で幅広い支持を得ていたが、21世紀に入って着手された、ガバナンス改革の本家本丸と言われる委員会設置会社への移行ペースは遅々として進行せず、それどころか、いったん、委員会設置会社へ移行しながら、監査役会設置会社に復帰する逆行ケースすら散見されるようになった。株主主権志向のコーポレート・ガバナンス制度改革が、次第にステーク・ホールダーの支持を失うようになったのは奈辺に原因があるのか。以上が、本稿前半部分における基本的な問題意識である。

  2. この問題意識に対する基本的な回答は、コーポレート・ガバナンス制度はそれ自体が独立なシステムではなく、他の経済システムと密接な関連性を伴いつつ、システム全体における一つのサブシステムとして存在しているという事実である。さらに、これらサブシステム間には、慣性とも呼ぶべき現状維持圧力を常にシステム全体に負荷させる「制度的補完性」が存在する。わが国の場合、企業価値の創造において、人的資本の蓄積が株主所有の現物資本よりもはるかに重要な意義を持つ企業が支配的であるため、株主主権志向的なガバナンス制度改革を断行すると、利益分配額が相対的に減少する従業員のモチベーションが低下し、それが企業価値を毀損してしまう「ホールドアップ問題」が深刻化しやすい。ホールドアップ問題の解決のためには、狭義のコーポレート・ガバナンス制度だけではなく、多数の関連するサブシステムにおける制度改革を同時進行させることが必要となり、これが大規模なガバナンス制度改革の進行を阻む最大の原因であると考えられる。

  3. もちろん、制度的補完性が存在する下であっても、経済システム全体の改革を進めて行くことは可能である。その一つの方法は、システムの構成員全員が「協調的な行動」によって、新しい制度・仕組みに社会全体で一斉に移行することである。こうした大規模なシステム移行には、移行後の新システムに関するメリット・デメリットに関する情報を構成員全員が共有することが前提となり、そのためには、改革がもたらすベネフィットとコストとの関係をできる限り正確に事前把握しておく必要が生じる。以上が、本稿後半部分における主要な問題意識である。

  4. この第2の問題意識に沿って、本稿の後半部分では、委員会設置会社のパフォーマンス指標に関する実証分析を行った。具体的には、3月期決算の委員会設置会社33社と、そのpaired sampleである監査役設置会社33社との間で、企業のパフォーマンスを代理する指標変数を相対比較する分析アプローチを採用している。パフォーマンス指標としては、A.コーポレート・ガバナンス関連指標、B.株式市場における投資家評価関連指標、C.裁量的利益調整行動の関連指標、D.実体的裁量行動の関連指標、の四つのカテゴリーからそれぞれ複数の評価指標変数を採択した。

  5. 実証分析結果からは、ROAなどコーポレート・ガバナンス関連指標、およびPBRなどの投資家の評価指標に関しては、委員会設置会社と監査役会設置会社との間では、ほとんど統計的に有意な差は検出されなかった。一方、裁量的利益調整行動の代理変数である裁量的会計発生高については、委員会設置会社のそれが監査役会設置会社のそれを有意に上回る傾向が検出された。さらに、実体的裁量行動に関しては、委員会設置会社の方が相対的に高水準の広告宣伝費・研究開発費支出を維持していることがわかった。これらの結果を一括して事実整合的に解釈することは難しいが、一つの説得力ある解釈仮説─全般的な経営環境が悪化し、中長期的な投資支出への削減圧力が高まる下で、委員会設置会社は監査役会設置会社と比較して、より高水準の広告宣伝費・研究開発費を維持する一方、足元の利益水準に関してはもっぱら会計発生高の裁量的計上によって調整行動を行っているというもの─を提出することは可能である。この仮説に拠れば、以上の実証結果は、「利益の質」の維持という点で、委員会設置会社の相対的優位性を示唆する結果となる。ただし、以上の結果は、「利益の質」や「実体的裁量行動」など、一般的にはあまり用いられない評価指標にまで踏み込んだ詳細な分析を行って初めて、委員会設置会社の相対的優位性が明らかになるという程度の微小なもの、と控えめに解釈する方がふさわしいのかもしれない。

  6. 本稿の実証結果から判断する限り、委員会設置会社への移行がもたらすベネフィットの大きさを根拠に、株主主権的なガバナンス制度改革の方向性を正当化することは難しい。今後のコーポレート・ガバナンス制度改革において、株主主権的な方向で制度改革を展開して行くためには、制度移行に伴って発生する追加的コストを若干なりとも抑制するための方策を、併せて準備する必要があるだろう。
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