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女性活躍推進、継続就業支援制度の次なる施策
~女性社員の意識改革だけで終わらせない、個に着目した計画的なキャリア開発の推進~

2016年09月23日 榎本久代


 安倍内閣が女性の活躍推進を成長戦略の中核に位置付けて以来、各企業の取り組みが積極的に進んでいる。今年4月の女性活躍推進法施行に伴い、採用数や勤続年数、管理職への登用数などの目標値の設定とそのための行動内容を具体化し、実現に取り組んでいる企業も多い。
 現在、企業の女性活躍推進策としてもっとも早く、もっとも多く導入されているのは継続就業支援制度であろう。女性が出産、育児を行うことを理由に会社を退職することなく勤務を継続するための施策として育児休業および育児短時間勤務が多くの企業で制度化され、利用されている。これにより女性社員の勤続年数の長期化など、一定の成果も上がっている。反面、育児短時間勤務を利用している女性社員に意識的に軽い負荷の仕事を与え、それ以外の社員の業務負荷が過度に大きくなったり、短時間勤務を理由に女性社員の評価を一段低く扱ったりするケースも少なくない。こうしたことが職場の不協和音を高め、意欲ある女性社員の退職にもつながっている。
 これら企業に共通的に見られることは継続就業支援制度の定着が進む反面、他の施策に着手していないということである。
 女性活躍推進の目的は単に女性社員の勤続を長期化し、女性管理職の数を増やすことではない。人口減少が現実のものとなっている今、性別や年齢、国籍に関わらずさまざまな人材が活躍できる社会を作っていくことが日本の大きな課題である。グローバル化した経済環境の中で企業が、ひいては日本経済が成長発展を続けていくために多様な価値観を受け入れ、それによりイノベーションを誘発していくことで継続的な企業成長につなげていくことが期待されている。女性活躍推進はそのきっかけにすぎない。
 厚生労働省の平成25年雇用均等基本調査によると、女性の管理職が少ない理由として「管理職になるために必要な在籍年数を満たしていない」という回答が6割近くの企業から上げられた。次いで多かった回答は「管理職に登用できるだけの知識、経験、判断力が足りない」という回答であった。女性社員の勤続の長期化が現実のものとなった今、次に着手すべき施策は管理職に登用できる知識、経験、判断力を身につけさせるための育成である。

 女性社員の育成施策として重要な要素は「女性本人の意識改革」とその上で行う「計画的な職務経験の蓄積」の二つである。

 まず、一つ目である「女性本人の意識改革」はすべての基本である。女性の多くは人生の選択肢が多いゆえに長く働き続けようという意識が弱く、短期思考になりがちという傾向をもっている。また、子育てをしながら管理職などの責任ある立場で組織上活躍している先輩女性社員がいないことにより将来不安を感じる女性も多い。それが仕事に対する積極性やチャレンジ意欲の低さ、そして責任の重い仕事を避けるという行動につながっていると考えられる。
 しかし、近年の定年延長、シニアの再雇用に見られるように働く期間は着実に長期化に向かっている。育児についても出産後10~15年を経過した頃から次第に子育てによる拘束時間は短くなる。子育て後の人生は長く、継続的にキャリアアップを図っていく時間は十分に残されている。意識改革研修は女性自身にこうしたことを考える時間を与え、同時に自らのキャリアを振り返り、自分自身が何を大事に思って仕事をしているのかについて長期的に働く上での指針となるものを考える時間となる。意識改革研修により女性社員にとってこうした働く上での基本的なスタンスをリセットする機会を与えることは何よりも重要である。

 二つ目は意識改革を促された女性たちが職場で長期的に活躍するために必要な一人ひとりに着目した「計画的な職務経験の蓄積」による育成である。
 空調機メーカーとして有名なダイキン工業は1990年代から多様な人材の活躍に取り組んでいる企業であり、最近ではなでしこ銘柄やダイバーシティ100選にも選出されている。ダイキン工業の社外発表資料(2015年8月)によると取り組み当初の1992年に比べて女性社員の勤続年数は4.9年→10.3年、平均年齢は26.7歳→34.5歳と大きく伸びている。しかし、2015年時点の女性社員比率は15%、女性管理職比率は3%であり、活躍が進んでいるとは言いがたく、同社は新たな取り組みに着手した。
 その中に「女性幹部・管理職登用に向けた育成の加速」をテーマとしたものがあり、「若手女性の育成を前倒し。20代で修羅場経験を積ませ早めの成長を促進」という施策が示されている。これは従来であれば管理職や中堅クラスの社員が担当する難易度の高い重要テーマを若手女性社員に課すことで早期の育成を図ろうとするものである。ダイキン工業ではこの施策を推進するにあたって、対象者一人ひとりに対して、役員・部門長クラスが「育成責任者」として就き、 テーマの目標達成と対象者の育成に対して責任を持つこととし、あわせて周囲の役員、管理職もサポーターとして対象者をサポートする仕組みとした。
 女性社員にとっての計画的な育成を考える上では入社後から結婚、出産前までの期間にどのような職務経験をしたかということがポイントとなる。従来、同期に男女二人の総合職がいた場合、女性よりも男性に難しい仕事を任せる傾向があり、場当たり的な職務分担によりこうしたことが繰り返されると、例えば同じ10年の職務経験を積んだとしてもその中身に大きな違いを生み、その状態のまま女性が出産、育児期間に入ることで復職後の仕事のレベルに大きな開きが生じる。さらに復職後に簡易な仕事を長く任されることになるとその差は決定的ともなる。ダイキン工業の取り組みはあえて女性社員に早い段階で修羅場を経験させることで難しい仕事を成し遂げるという達成感や仕事の面白さを体験させ、一段高いレベルでの職務上の成長と心の成長を遂げさせ、ひいては育児期間中やその後の就業におけるキャリア開発への意欲を継続させようとしていると考えられる。
 女性自身が長期的に自らのキャリアを考えにくい現状では女性社員の育成をこうした計画的な取り組みによって行うことは有益である。そしてその実施には管理職のリードが不可欠である。ダイキン工業のような全社的な活動ではなくとも、管理職一人ひとりが自分の部下である女性社員の長期的な育成を考え、数年単位で意図的に職務分担や役割を変えたり、時に部門横断的なプロジェクトを担当させるなど、さまざまな職務経験を蓄積させることで育成を図ることができる。もちろん対象となる女性社員との十分なコミュニケーションが前提だが、担当する仕事の意味や本人に期待する役割、そしてトラブルなど困難な状況になったときのサポート体制を明確にし、常に後ろから見ているというメッセージを与えつつ、一つ一つ新しい経験を積んでいく楽しさを体感させることが現在の成長と将来的な成長意欲の維持につながるのである。

 今年4月、女性活躍推進法の施行と同時期に職業能力開発促進法の改正が行われ、労働者が自ら職業生活設計を行い、自発的な職業能力の開発や向上に取り組むことが責務とされた。同時に事業主に対しては労働者が行うキャリア開発の設計・目標設定、そのための能力開発の支援を行うことが(努力)義務付けられた。
 従来、企業におけるキャリア開発は企業が主体となって階層別研修などの機会を設け、多くの社員は会社方針に従ってそうした研修を受け、職務経験を積むことで自らのキャリアアップを図ってきた。しかし、本改正によりキャリア開発の主体は労働者自身であり、同時に事業主には労働者各人の希望に応じた個別対応をすることが義務付けられたのである。つまり、キャリア開発についてはすでに全社員を対象として個別対応を行うことが求められているのである。
 こうした流れを踏まえると、継続就業支援制度の次なる施策として考えられるのは継続就業支援制度を単なる子育て支援制度から仕事との両立支援、ひいては対象となる女性社員一人ひとりのキャリアアップ支援へとブラッシュアップすることであろう。本人と十分に話し合いを行い、育児短時間勤務からの早期の完全復職を促し、短時間勤務期間中であっても定期的にフルタイムの勤務日を設けるなど、まずは対象者の個別事情に応じた柔軟な制度運用を行うことにより、出産・育児をキャリアブレーキにしない施策に転換されてはいかがだろうか。

※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません
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