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CSRを巡る動き:経済移行リスクに呼応する企業の行動変化

2016年09月01日 ESGリサーチセンター


 国際的な金融システムの監督機構である金融安定理事会(Financial Stability Board: FSB)が2015年末設立した気候変動に関する財務情報開示タスクフォース(Task Force on Climate-related Financial Disclosure: TCFD)での議論を着々と進めています。2016年3月末にTCFDの活動の範囲・目標を決定するフェーズ1を終了し、4月からのフェーズ2では企業による1)自主的な情報開示原則、2)先進事例についての具体的な提言をまとめる予定です。フェーズ1の最終報告書は、良好なコーポレートガバナンスにより1)企業のビジネスにおける気候変動による影響を包括的に把握すること、2)そのリスクマネジメント戦略を持つこと、によりTCFDの提言の有効性が増すと明言しています。

 2016年7月中旬にニューヨークで開催されたセッションにおいてもその重要性が再度強調されました。一方で、同セッションの1)低炭素経済・社会への移行を見誤り投融資回収が困難になる経済移行リスク、2)低炭素経済・社会への移行についてのシナリオ分析、のふたつのパネルディスカッションにおいて、TCFDが行う答申に対して、予想される企業の反応に議論が及んだのは興味深い点でした。例えば1)仮に答申が示された後でも企業がそれを遵守しないのではないか、2)気候変動のビジネスへの影響を把握するストレステストの条件を企業は甘く設定し、ストレステストの有効性自体を台無しにしてしまうのではないか、といった懸念がパネルディスカッションで言及されたのです。TCFDによる答申公表がありさえすれば、企業による必要な行動、及びそれに関する情報開示が現実のものになるわけではないという指摘です。特に経済移行リスクのように過去の活動の延長で対応できない事柄に対しては、指摘されたような懸念が当てはまるかも知れません。

 ただしTCFDが何も対策を取っていないわけではありません。既に温室効果ガスを大量に発生するエネルギー集約産業から委員をTCFDに招聘しているのは、明確な配慮です。具体的には先進国・新興国の双方から鉄鋼や化学、石油・ガス等の産業から代表的な企業から委員が招聘されています。情報開示原則に大きく影響される産業を議論に参加させることで、タスクフォース終了後の情報開示原則遵守のプレッシャーを高め、実効性を確保するという狙いがあると考えられます。FSBという権威ある組織が主催するタスクフォースで議論が行われているものの、情報開示原則は規制ではなく、あくまで任意のフレームワークとし、企業は情報開示が義務付けられるわけではないとしていることも、企業側の反発を回避する狙いがあると推察できます。

 2017年初めにも公表される予定の情報開示原則の内容だけでなく、企業が実際、どう行動を変えるのかに、データ利用者である銀行や投資家など金融機関は注視する必要が生まれることになるでしょう。企業側の情報開示が不十分な場合には、金融機関は企業に対して働きかけを行う局面もあり得ます。加えて、これらを円滑に行うために、金融機関自体にも、開示されたデータを活用するために必要な社内体制整備が迫られることになるでしょう。
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