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女性活躍推進を起点として本格的な働き方改革へ

2016年07月26日 太田康尚


 「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律(女性活躍推進法)」が平成28年4月に制定されたことをきっかけに新たに女性活躍推進に取り組み始めた企業においては、その推進上の様々な問題点が浮き彫りになり始めている。男性管理職の理解が足りない、女性の母数が少ないのに無理がある、業界的に女性に向いていないなどの疑問や問題事象の原因は、表面的な対応に終始し本来の狙いを十分に従業員に理解させていないことに起因していることが多い。この場合、従業員からみればその取り組み自体が制度対応のための場当たり的対応に映るという残念な状況に陥ってしまっている。

 平成25年「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」の改正が成立した際は、シニア活用対応に追われ、海外進出や労働力確保のために外国籍社員の増員対応などの課題にも多くの企業は直面してきた。このように女性に限らず多様な人材に活躍してもらうための課題対応が企業の成長にとって重要なテーマとなっている。
 しかし残念ながら、法対応等や新しい人材確保の必要性に迫られて、対処すべきターゲットとなる人材を変えて個別に対応するという、場当たり的ともいえる状況が見受けられる。

 本来は、事業に必要な人材をきちんと定義した上で、その人材の採用・育成、および活用方法を検討し、さらに、それぞれの事情に合わせて力を発揮してもらうための勤務制度や支援制度などの働く仕組みを用意する必要がある。それらの仕組みが組織として一貫性があるかどうかが成果の質に違いを生じさせる。

 多様な人材を活用する仕組みとして重要な要素は、本来の狙いである人材活用の「方針」と新しい働き方を支える「制度設計」および「役割分担」の3つである。
 1つ目は、現在から将来に向けて事業に必要なのはどのような人材で、その人材をどのように採用し育成して活用していくかという会社としての明確な「方針」が欠かせない。
 もちろん会社の置かれた環境によって必要な人材像は異なる。事業に女性の感性が必要だからとか、優秀な人材を獲得するためには幅広く女性を活用する必要があるとか、同じコストなら経験豊富なシニア層の活用も必要だとか、様々な考え方がある。近年では若年層が管理職を選択せずに専門家としてのキャリアパスを志向する割合が増えており、従業員のキャリアに対する志向変化などを考慮する必要がある。
 会社として人材活用の「方針」を明確にし、その中で女性の活躍がなぜ必要なのかという全体像の中での議論がなされた後に、一貫した人材活用の取り組みを行うことが目指す姿に到達するための近道となる。

 2つ目に、その人材活用の「方針」に基づいて行われる多様な人材を視野に入れた適切な「制度設計」が重要である。
 志向の多様性を想定したキャリアパスの多様化、働く環境に制約のある社員を活用するための勤務時間・勤務地域・勤務場所(在宅勤務など)に柔軟性を持たせる時短勤務、在宅勤務、地域限定社員制度や子育てや介護などに追われる社員への支援制度、外国籍の社員が環境に早くなじむための語学や文化の習得の場の提供などを検討し制度を設計・改正を検討することが必要である。
 部分対応でない適切な制度設計が不公平感や白けたムードを払拭し、多様な人材が各人の志向にあった働き方を獲得し、高いモチベーションで事業の成長に貢献する、あるべき姿の実現を可能とする。

 3つ目に、新しい制度に基づく働き方を実現するために欠かせない一方で難易度が高いのが多様な人材を活用するための適切な「役割分担」である。
 働き方に制約のある人材を活用しようとしたとき、その制約をクリアするために従来1人の役割として定義していた仕事を分業にするとか遠隔地で作業できるような環境にするなどの工夫がなされる。例えば、多種多様な職務を遂行する役割にあり長時間労働が常態化した管理職に、時間的制約のある女性などの人材を配置する場合、従来の職務を分解し業務を再配分するケースがある。
 特定ポジションの職務内容を抜本的に見直し、新しい働き方に基づいて分解したそれぞれの職務を適切な人材が遂行するという視点で人材の再配置を実現し、組織全体のパフォーマンスを向上させている好事例もある。

 これら多様な人材活用を実現する仕組みに必要な3要素を真摯に議論し「次世代に向けた働き方改革」をイメージして、軸と定めた人材活用方針に社員の目線を合わせて改革を推進することができれば、組織風土の問題など様々な問題をも乗り越えられる。

 女性活躍推進の活動を起点としてあるべき次世代の働き方が議論され、生産性を向上するための本質的な改革を実現することが各企業およびわが国において必要である。

※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません
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