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ギャップシニア向けサービスが自治体にとって持つ意義とは

2016年07月12日 青島耕平


 私たちが取り組むギャップシニア・コンソーシアムにおいて、埼玉県和光市とダスキンが公民連携協定を締結し「わこう暮らしの生き活きサービスプラザ」(以下、プラザ)を開設したことは、すでに報告したとおりである。今回は、このプラザのような取り組みが自治体にとってどのような意義、メリットをもたらすのかについて考えたい。

 まず、このプラザが高齢者に提供するのは、大きく分けて「交流」と「情報」の2つである。交流とは、イベントの開催を通じて高齢者の意欲を喚起し、参加者同士のコミュニケーションを促進する機能である。「情報」とは、高齢者との会話内容から生活の不便や困りごとを発見し、それに応じた様々な有益な情報を見いだす機能である。この2つの機能が両輪となり、事業を推進していくことになる。

 それでは自治体から見た場合、これらの機能はどのような有用性を持つのだろうか。
 市町村は、介護保険制度の保険者として、住民向けの介護予防に取り組んでいる。しかし、これまでの介護予防事業は、介護予防の手法が心身機能改善を目的とした機能訓練に偏りがちであり「活動」や「参加」の側面が弱かったこと、介護予防終了後の継続的に活動できる通いの場が十分でなかったこと等の問題点が指摘されている。まず始めに、こうした課題の解決にプラザの交流の場が有効である。新たな高齢者の通い・活動の場となることで、プラザは自治体の介護予防終了後の受け皿となることができるだろう。これはどちらかと言えば、介護予防事業に参加した集団全体を対象にした(※1)ポピュレーション・アプローチに近い手法と捉えることができる。
 また、自治体から見たもう一つの有用性は、プラザが地域包括支援センターと連携することで、地域包括支援センターの機能強化につなげることができることである。これには2つの側面が指摘できる。
 1点目は、地域包括支援センターの持つ医療・介護・福祉等の社会資源に関する情報のハブの機能を、プラザのような民間事業者がサポートできるという点である。地域包括支援センターの取り組みとして、地域の社会資源マップを作成し、見やすいかたちで一覧化して高齢者に提供するなどを行っている場合があるが、プラザでは民間事業者のポジションを活かして商品・サービスの調達・提供、不足する商品・サービスの確保まで踏み込んだ関わりができるため、より高齢者の支援の幅を広げることができよう。
 2点目は、個人情報共有に関するルールを設定した上で、プラザから地域包括支援センターへ、高齢者の生活状況に関する情報提供ができるという点である。例えばライフイベント(自身の入院や家族の死等)の発生によりこれまで元気だった高齢者の生活状況が急激に悪化することがあり得る。このとき、日常的に高齢者と接点を持つプラザで、小さな変化を見逃さずに地域包括支援センターに連絡を取る体制を整えることができれば、重度化する前に早期の対応体制を作ることが可能になる。こうした体制構築は、高齢者にとっての安心につながり、自治体にとっても大きなメリットとなるであろう。
 これらは、地域包括支援センターを中心とした個別的支援のネットワーク構築(どちらかといえば(※2)ハイリスク・アプローチ的手法)に民間事業者を参画させていこうとするものと捉えることができる。なお、このアプローチには、個別的支援に関わる多様な専門職が参画したコミュニティケア会議でのケース検討が欠かせないことを付記しておきたい。

 現在もコンソーシアムの実証事業は継続しており、効果検証はまだ途中段階である。今後、プラザと自治体および介護予防事業者・地域包括支援センターが、上記のような仮説に基づいて連携を行う中で、 高齢者の生活状況の維持・改善効果にどのようにつながっていくのか、検証を進めていきたい。

※1 ポピュレーション・アプローチ:集団全体で危険因子を下げる方法
※2 ハイリスク・アプローチ:より高い危険度を有する者に対して、その危険を削減することによって疾病を予防する方法を高リスクアプローチ


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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