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CSRを巡る動き:ユニバーサルオーナーの考え方が広まる

2016年07月01日 ESGリサーチセンター


 近年、ESG投資を積極的に推進している海外の巨大な公的年金基金の間で、ユニバーサルオーナーという考え方が広がってきています。

 ユニバーサルオーナーとは、巨額の運用資産を持ち、中長期的な視座にたって、幅広い資産や証券に分散投資を行っている投資家が置かれた状況を表現した言葉です。運用資産が巨額のため、事実上、経済・市場全体を輪切りにした一部(「スライス」)を所有した状態になっていることから、「すべての」「全体の」という意味を持つユニバーサル(Universal)という言葉と、「所有者」を意味するオーナー(Owner)という言葉が用いられています。

 例えば、世界約7,400銘柄の株式時価総額の1.31%を保有する「ノルウェー政府年金基金―グローバル(GPFG)」(2015年末時点で運用資産総額104.6兆円)も、ユニバーサルオーナーであることを表明している年金基金の一つです。

 一般的な株主とユニバーサルオーナーの違いは投資行動に表れます。

 ユニバーサルオーナーは、経済・市場の「スライス」を所有しているため、個々の会社の業績・株価だけでなく、経済社会が持続的に成長するか、市場が健全に機能するか、といったことに強い関心を注ぎます。例えば、企業活動に伴う環境汚染や大量の温室効果ガス排出など、経済社会の持続可能性に悪影響を与え得る企業行動が問題視されます。一般的な株主であれば軽視しがちなテールリスク(起こる確率は極めて小さいが、万が一起これば経済や市場全体に甚大な影響を及ぼす要因)に対しても強い警戒心を抱きます。

 経済社会の持続的な成長や、市場の健全な機能を確保するため、企業に対して積極的に働きかけ(エンゲージメント)を行うのもユニバーサルオーナーの特徴です。特に、個別の企業に対するエンゲージメントにとどまらず、特定の業界全体や、さらには規制当局にまで積極的に働きかける点が特徴です。

 2014年から15年にかけて、「脱石炭投資」(石炭火力発電所を保有するなど、石炭資源への依存が強い企業から投資を撤退すること)を対外的に宣言する投資家が世界的に急増しました。その運用資産総額はわずか1年で500億ドルから3兆4000億ドルにまで拡大したと言われています(注)。背景には、地球温暖化の抑制に向けて、多量の温室効果ガスを排出する石炭火力発電への規制が今後強化され、将来的に資産価値を失うかもしれないという懸念が強まっていることが挙げられます。

 しかし、将来的な資産価値の毀損を考慮に入れたときに、石炭資源に依存する企業の現在の株価が割高だと判断するのであれば、株主は単にその株式を売却すれば済む話だという指摘もあります。しかし、あえて「脱石炭投資」を対外的に宣言するのは、企業・業界や規制当局などに対してシグナルを発することによって、企業や社会の変革を促そうという狙いがあるからです。こうした行動も、ユニバーサルオーナーの考え方を反映したものといえるでしょう。

 国内では、2015年9月、世界最大の規模を持つ年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が国連の責任投資原則(PRI)に署名しました。国連サミットの全体会合の演説で安倍総理は「(GPIFのPRI署名により)持続可能な開発の実現にも貢献する」と国際社会に表明しました。GPIFもその資産規模から言えばユニバーサルオーナーといって過言ではないでしょう。今後、GPIFが「持続可能な開発の実現」のためにユニバーサルオーナーの立場を強めてくるのか、その動向に世界が注目しています。

(注)gofossilfree.orgによる集計。
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