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コミュニケーションビークルという概念

2016年04月26日 武藤一浩


 2013年10月にコンソーシアムを設立し、現在も検討を進めているCOSMOS(Community Oriented Stand-by MObility Service)の活動は、コンセプトを「人と街・人と人の出会いのきっかけを創出し、人が行き来し街に出てくるようにすることで、人と街を元気にする」新しいモビリティサービスとしている。中でも「人と街・人と人の出会いのきっかけを創出」するために重要となるのが、コミュニケーションビークルの存在だ。

 コミュニケーションビークルのイメージは、もちろん既存の公共交通手段や一般的なクルマではない。住宅街内の移動に特化した低速(20km以下)ビークルで、窓やドアがなくオープンエアなため走行中も道行く人とコミュニケーションが取りやすく、運転が簡単、乗り降りしやすい座席の高さ、4人程度が乗れる、といったものである。ゴルフ場にあるカートのようなものといえばイメージしやすいかもしれない。
 コミュニケーションビークルは乗り物といっても、あえて移動を主目的にしていない。街と人、人と人をつなぐインターフェースとして機能し、地域住民同士のコミュニケーションを活性化させることに主眼を置いている。祭りの山車やおみこし、昔あった井戸(人が集まり井戸端会議が始まるきっかけとなった)と同列の概念である。
 また、ビークル車内にタブレット等を搭載し、利用者が地域に特化した情報(「○○公園で桜が咲いた」等の地域住民個人から提供された情報)を得ることができる機能もあれば、よりコミュニケーションが活性化されるだろう。コミュニティの強化、地域防犯のツールとして行政の支援を得られれば、住民側の導入負担も小さくなる。住宅街は、公共交通や乗用車などの走行量が少なくなり、低速走行が一般的となるため、電磁誘導などの技術を用いれば自動走行の実用化への道筋も見えてくる。

 ある住宅街の住民の方々に住宅街内のみ走行に限定したカートへの試乗(運転せず同乗のみ)をしていただいたところ、一部のリタイア層からなる住民コミュニティからは、「このカートを持ち回り当番制で地域のリタイア層が運転して街中を走り回り、地域の人々を乗せてあげることで、地域のみなが日常顔を合わせたり自宅から連れ出したりできる環境としたい」という声もあがった。この背景には、リタイアした直後の方々(特に男性)の中には、会社というコミュニティへの所属が終わり、新たな帰属コミュニティとして「地域」に目を向ける方も多いという状況が見て取れる。コミュニケーションビークルの導入は、今後増えるリタイア層に、活躍の場を与え、地域コミュニティへ参加するきっかけづくりになる可能性も感じられた。
 掲げているCOSMOSのコンセプトの最後にある「人と街を元気にする」は、地域活性化のことを指している。前述したように、コミュニティ自らが、能動的にコミュニケーションビークルを入れていこうとする動きができるのであれば、住民主導で地域活性化を進める手法となり、政府が掲げる地方創生の動きにも合致する。また、政府が実現したい自動走行の実用化についても、コミュニケーションビークルを切り口に安全運転支援技術導入を進め、徐々に自動の技術範囲を広げていくことで道筋が開けるのではないか。公道での自動走行においては、高速走行が多い長距離移動よりも、低速走行を主とする住宅地内での短距離移動の方が技術的には比較的単純であり、導入も容易であるという仮説を検証することにもなる。

 われわれは、今後も引き続きコミュニケーションビークルの可能性を追求し、その導入実現に向けた検討および実践活動を進めていく考えである。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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