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予防(ケア)の広がりによる新たな商機

2016年04月12日 横山理佳


 経済産業省と東京証券取引所は、上場会社の中から「健康経営」に優れた企業を選定し、長期的な視点からの企業価値の向上を重視する投資家にとって魅力ある企業として紹介することを通じ、企業による「健康経営」の取り組みを促進する事業を行っている。本年2月、第2回目となる健康経営銘柄が選定され、健康経営において優れた取り組みのあった企業が表彰された。
 従業員の健康に配慮した視点を経営に反映することで、従業員の医療費は、10%以上削減できることもあるという。検診受診率や健康行動への参加率も上がる等の直接的効果のみならず、経費削減や生産性向上など経営数字に結びつく効果も確認されている。さらに、「従業員の多様性を認める」という副次的効果も出始めている。例えば、早朝残業する従業員に残業手当と朝食提供などのインセンティブを与えるという事例では、経費削減や生産性向上に留まらず、女性の働きやすさ改善や家族の健康配慮向上にも繋がっているというのだ。「健康経営」というキーワードは、当初は企業の新たなコストと認識され、優先順位は必ずしも高くなかった。しかし、経営指標にも効果が現れ、さらに、身近な生活の場面で人々は、予想を超えた波及効果も生まれているようだ。このようなうねりが生まれている変化を心よりうれしく思う。

 日本再興戦略に「国民の健康寿命の延伸」が位置づけられ、予防領域の健康増進や生活支援に関する事業が推進されてきた。この結果、「健康」という言葉の定義が大きく拡大したといえよう。衛生環境の改善や疾病の治療(キュア)から、発症や進行を防ぐ予防(ケア)に健康政策の焦点が転換している。予防(ケア)の領域では、2つの技術革新が顕在化している。まず、これまでは通院時にのみ享受できた高度な診断や専門的な知見を簡便に利用できるようになった。遺伝子検査やガン早期発見ツール、医療従事者による情報提供など、昨今のニュースを賑わせているものの多くはこれにあたる。さらに、ウェアラブルで測定した情報が、人工機能やセンサー等の新たな技術開発と融合し、一日の多くの場面において、健康を想起する機会が得られるようになった。より自然に、より日常的に、健康を意識できるようになったといえる。

 それでは、予防(ケア)は、今後さらにどのような変化を遂げていくのだろうか。これまでは、健康寿命の伸長を目的とした、身体の不調にスポットを当てて改善するアプローチであった。測定技術の進歩によって確かに人々の健康に対する意識は高まり、データ活用の発展によって健康に対する知識も高まった。国民の健康を守るという視点では十分な効果が生まれたといえよう。しかし、一方で、意識と情報が過剰になってしまった嫌いがある。必要のない情報をも取り入れ、不自然な健康管理によって疲弊する傾向も生まれている。いわば、「健康になろうと焦るあまりに、不健康になる」という状況だ。これからの焦点は、自身の健康を正しく把握し、必要な介入を必要な時に取り入れるアプローチに重点を移すべきであろうと考えている。体の声に耳を傾け、良好な状態に調整していく発想は、楽器の音をチューニングしていくような感覚に近い。

 健康状態を維持するために、環境を調整するこの、「チューニング」の発想は、海外メーカーを中心に具現化されている。たとえば、ドイツの照明メーカー、バルトマン社が提供している照明スタンド、LAVIGOは、24時間のリズムに合わせて人々が生理学的に欲する光を与えることで、日常のストレスを軽減できる。長期にわたる光と人間の関係を研究しつくした結果から生まれた商品である。インテル社は、昨年、軽量センサーを取り付けた衣服類を発表した。体の変化を記録して即時に解析することができるドレスは、人々が快適と感じる状態になるまで自らの形を変化させる。これらの商品の要素技術は、実は、日本で開発されているものが多い。これからの予防(ケア)商品・サービスの開発では、人々が欲する状態を丁寧に捉えることの重要性が増していく。こうした「チューニング」の発想で、海外市場も含めた新たな事業機会獲得の実現余地がある。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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