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日本総研ニュースレター 2015年9月号

「新常態」下での発展を目指す中国PPP事業への進出機会

2015年09月01日 王婷


「新常態」下で求められるPPP事業の役割
 「新常態」下の中国では、経済発展モデルや社会システムにおいて様々な改革を試みている。PPP事業の普及促進はその代表例の一つで、その理由は2つあると考えられる。
 一つ目は、インフラ投資に必要な資金調達の手段としてだ。中国政府は、2020年までに住民の都市化率を60%に引き上げることを目標とするが、それには42兆元の資金が必要と推測される。しかし、債務整理と財政規律強化が課題とされる地方政府は、土地売却や地方債発行を安易に行えないため、PPP事業が頼みの綱といえる状況にある。
 二つ目は、中国が豊かになり、質の高いサービスへのニーズが強くなったことだ。公共サービスの質向上には、PPP事業を通じて民間の創意工夫を引き出すことが不可欠だ。
 三つ目は、民間企業の活性化による国有企業改革だ。PPP事業を通じて、圧倒的な存在感を持つ国有企業に対抗できる競争力を持つ民間企業を育成することで、国営企業の効率改善をもたらそうとしている。

経験不足で混乱する現場
 PPP事業普及のため、2014年12月、財政部(日本の財務省に相当)では交通や医療、浄水、汚水処理など10分野・30件、事業総投資額1800億人民元のモデル事業を選定した。また、国家発展改革委員会も2015年5月、水処理やゴミ処理、熱供給、医療福祉施設、鉄道、道路、港など十数分野・1041件、事業総投資額1.97兆元のモデル事業を公表した。しかし、いずれの事業も順調とはいえない。
 原因の一つは、制度の不確実性だ。財政部と国家発展改革委員会という異なる組織が縄張り争いを続け、PPP事業の定義さえ統一されていない。さらにスピード重視のあまり、矢継ぎ早に公表されるガイドラインや規制が、実務面で使いづらかったり、従来の法律や制度などとの整合性に欠けたりするなど、地方政府が困惑するケースも多いという。
 二つ目は、資金調達の仕組みが不完全なことだ。実は中国では1980年代からPPP事業が行われ、汚水処理場や道路、発電所などを中心に8000件もの実績がある。しかし、その際の資金調達は、地方政府の出資や担保、そしてPPP事業者の担保に頼ってきた。そのため、今後の中心となるべき中国の金融機関はプロジェクトファイナンスに不慣れでPPP事業への融資に躊躇することが多く、普及を阻む大きな一因となっている。
 三つ目は、専門的知識と人材の不足だ。政府側も事業者側も事業・リスク評価をはじめ、PPP事業の知識とノウハウに欠ける。そのため、PPP事業とは外見だけで、中身は従来の公共事業と変わらないことも少なくない。また、20~30年という長期の事業運営が可能な事業者も限られている。

日本企業はサービス重視の分野にチャンス
 中国政府は今後もモデル事業を進めながら法規制の整備や人材育成、PPP市場の規範化を推進する計画だが、結局、経験豊富な外資企業の協力が欠かせない。外資側もそれをビジネスチャンスと見ており、既に英国は、財務省を中心に官民を挙げてPPP事業に関する制度構築のノウハウを提供し、今後の展開の下地作りを行っている。
日本の強みは日中の官僚システムの類似性だ。英国のPFI事業を日本の風土に合うようにアレンジさせた日本のノウハウは、中国でも受け入れられるものになるだろう。
 また、日本企業が国内で蓄積したハイレベルな公共サービス、特に長期にわたる事業運営のノウハウは強い競争力を持つ。なかでも中国国内にノウハウが少ない、軌道交通や都市における大規模なごみ焼却場など大型施設の分野にチャンスがある。また、医療福祉施設、教育・文化施設などサービス重視の分野も強い。さらに、日本企業の資金調達能力も強い武器となるだろう。
 新常態下でのPPP事業は始まったばかりで、日本企業の参画もまだ十分間に合うタイミングだ。官民が手を携えて情報収集や事業検討を開始し、英国のように制度構築や人材育成に積極的に関わっていくことで、上流からの参画を目指すべきだ。
 ただし、PPP事業はローカル性が強く、地方政府との関係や中国国内での実績など、様々な面で高いハードルが課されるため、日本企業が単独で参入するのは非常に難しい。そのため、実力を有する現地事業者との連携という枠組みでビジネスを考えることが条件となる。

※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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