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都市部のお墓事情と納骨堂の可能性についての考察

2015年11月24日 福田隆士


東京を中心とした都市部のお墓事情
 都市部、とりわけ東京では墓地が不足している(注1)。東京都内の公営墓地の募集には定員を大きく上回る応募が殺到するなど、需要が供給を上回る状況が続いている。東京都内の墓地需要は年間約20,000基前後と見られ、大きく減少する見込みは小さいが、それに対して墓地供給は不足している状況が指摘されている。また、墓所を確保できずに遺骨を自宅に所持している、あるいはお寺に預けているというケースもかなり存在すると言われている。
 東京都には1万弱の墓地施設があるが、近年は微減傾向となっている(注2)。つまり、東京都内では新たな墓地施設はほぼ開設されておらず、既存墓地施設の増設あるいは既存区画の再募集により、なんとか一定の供給数を確保している状況となっている。
 他方、日本の人口は減少傾向となっているものの、東京を中心とした都市部への人口流入は続いている。さらに都市部における住民の定住意向は地方部よりも強い。また、核家族化の進展による墓地需要の増加に加え、先祖代々のお墓に入らず、居住場所からのアクセスが良い場所に求めたいといったお墓に対する意識の変化等も、需要増加の一因となっており、東京では自身が入る予定のお墓を有していない人が増えている。
 供給が増えない中、需要は着実に増加しており、東京都内の墓地不足は解消されないままとなっている。

墓地供給が増えない要因
 需要は増加傾向であり、供給不足が明らかであるのに、東京の墓地の供給が大きく増えない要因はいくつか挙げられるが、特に大きな課題は以下の3点と考えている。
 ● 法規制の課題
 ● 近隣住民との調整面の課題
 ● 経営主体の財務・経営面の課題

<法規制の課題>
 墓地供給における法規制の課題としては、「墓地の新規設置の難しさ」や「墓地の設置場所の制限」が指摘できる。墓地の経営については都道府県知事の許可を要することとなるが、これは基本的に市区町村長に権限移譲されており、各市区町村では条例あるいは例規などによって墓地の経営に係る条件等が定められている。
 「墓地の新規設置の難しさ」という点を考えると、墓地の経営は、すべての自治体において原則、自治体、宗教法人、墓地等の経営を行うことを目的とする公益社団法人または公益財団法人とされており、民間企業やその他の非営利団体等が参入することはできない。また、新規の墓地設置に対して、多くの市区町村では、当該市区町村内あるいは隣接する場所に事務所を設置していることを要件としている。さらに、事務所設置からの期間を要件としているケースもあり、当該市区町村で一定期間の活動実態を求められる場合が多い。仮に宗教法人や公益法人が主体でも、現在活動している地域外で新規に墓地を経営することには大きな困難が伴う。
 例として東京都23区における各区の墓地の経営要件を見ると、23区すべてにおいて、区内あるいは隣接区への事務所設置要件が設けられており、うちいくつかの区では事務所の設置期間も要件としている(要件となる期間は3年以上、5年以上、7年以上といった形で定められている)。
 「墓地の設置場所の制限」については、第一に設置場所は墓地経営者が所有し、所有権以外の権利が存しない土地でなければならないという条件が課される。さらに、河川や海等からはおおむね20メートル以上であること、住宅や学校、病院、店舗等からはおおむね100メートル以上であることなどが制約となる。住宅や店舗等からの距離の制約があることを鑑みると、都市部で設置できる場所は限定的であり、郊外が中心とならざるを得ない。しかし、お墓を求める人は、当然、アクセス面も考慮するものであり、ニーズが大きいエリアに新規の墓地設置場所を確保することは非常に難しくなっている。
 
<近隣住民との調整の課題>
 上述した基本的な法規制の課題をクリアできても、近隣住民との調整という課題が生じることになる。墓地の新設には条例等で、住民等に向けた説明会の開催、協議の実施について義務付けられている。この説明会等については、形式的には決して難しいことではない。しかし、実務上の問題として困難を伴うケースが多い。
 もし、自宅あるいは自分の勤める店舗や事務所から100メートルくらいの場所に墓地ができることになった場合、簡単には受け入れられない人も多いはずである。近隣交渉には計画よりも時間がかかる場合も多く、全体の計画に遅れが生じることもある。また、近隣へのさまざまな配慮、対応が必要となり、それに伴って一定の費用あるいは事務負担が生じることもある。

<経営主体の財務・経営面の課題>
 墓地の経営主体は基本的に自治体、宗教法人、公益法人であるが、その多くは宗教法人で、中でも仏教寺院が多数を占める。以前は、お寺は総じて儲かっているだろうという見方もあったが、檀家との関係性の変化などもあり、最近ではすべてのお寺が安定した経営基盤を有しているわけではない。例えば、本堂建て替えの時期を迎えているが、資金調達ができず頓挫しているようなこともある。
 法人経営についても、事業計画を策定するなど、計画的に進めているケースは限定的であり、財務面、経営面は民間企業などと比較すると課題がある場合が多い。大半の場合、墓地の新設に必要な資金を自己資金で対応できるわけではなく、金融機関からの借入等に頼る必要がある。しかし、財務・経営面に課題があることから、資金調達が円滑に進まないケースも少なくない。

墓地不足の解消策としての「納骨堂」の可能性
 東京に代表される都市部では墓地が不足しているものの、それを補うだけの墓地を十分に供給し続けることは困難になっている。しかし、墓所不足を解決する手だては存在している。
 お墓の形態はここまで述べた一般的な墓地だけではない。納骨堂や合同墓といった選択肢は従前から存在したものであり、最近では樹木葬なども広がりを見せつつある。とりわけ、納骨堂の数は都市部を中心に増加傾向にあり、東京での推移を見ると2008年度は335施設であったが、2013年度には378施設と大きく増加している(注3)。納骨堂が増加している背景には、墓地と比較して新規設置に係る要件が厳しくない点、納骨堂を受容する層の増加という点があるものと考えられる。
 墓地を新設する場合、前掲のとおり設置場所の基準として河川や海からの距離、住宅や店舗等からの距離の制限があったが、納骨堂においてはこの制限は設けられていない。納骨堂の近くに居住していても、そこが納骨堂であったという事実を知らないケースはよく耳にするものであり、外観上の点からも、墓地よりも建設が容易であると推察できる。法規制の問題が小さい点は、間違いなく納骨堂が増加している要因の一つであろう。
 また、納骨堂は地域によってはかなり以前から標準的なお墓の形態として存在したものであるが、都市部における一般の認知は近年になって高まってきたものである。従来の納骨堂は大半がロッカー式であり、必ずしも良いイメージではない面もあった。しかし、最近の納骨堂は広くきれいな参拝スペースがあり、機械による自動搬送でお骨が眼前に運ばれるというものが多くなっており、そのイメージは大きく変容してきている。さらに、お墓に対する意識の変化も見られる。従来、日本においてお墓は先祖代々のもので、子孫がそれを承継・維持していくことが当然という考えが大勢を占めていた。しかし、近年では、子どもや孫に迷惑をかけたくない、配偶者の親と同じお墓に入らなくてもよい、といった考えも出ており、先祖代々の墓地へのこだわりは薄れてきている。このように、従来よりも納骨堂を受容する層は着実に増えているという点も納骨堂の増加の要因となっている。
 もちろん、納骨堂によって経営主体の財務・経営面の問題がなくなるわけではないが、比較的資金調達の実現可能性が高めることはできるはずである。例えば本堂の建て替えの資金調達について考えてみると、単に本堂を建て替えるだけの場合、返済原資をいかに確保するかが調達時の大きな課題となる。一方、本堂建て替えに合わせて、本堂に納骨堂を設置することとすれば、必要な資金は増えるが、返済原資の確保の道筋は見えやすくなる。また、一般的に納骨堂は、イニシャルコストである永代使用料以外に、維持・管理に係るランニングコストとして護寺会費が必要となる。護寺会費は基本的に明確にされている場合が多い。従来、寺院は檀家からのお布施などが活動資金となっており、資金の流れが見えにくい面があったが、納骨堂経営の場合、収入面が明確であるので経営主体としては計画が立てやすく、金融機関等からはその計画の妥当性の検証が比較的容易になったと言える。
 東京における墓地不足解消のために納骨堂は有効な手だての一つであろう。最近では主要ターミナル駅の徒歩圏内など非常に立地条件が良い納骨堂や多様なコンセプトを有した納骨堂が建設されている。ますます多様化する消費者ニーズに応えつつ、墓地不足という問題を解消していくうえで、納骨堂の存在感は一層高まっていくだろう。

以上

(注1)ここでの「墓地」とはいわゆる従来型のお墓のことで、屋外の区画に土地があり、石材等で作られた墓標が建っている形態の墓所のことを指している。
(注2、注3)厚生労働省「衛生行政報告例」より。

※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません

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