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「子どもの参加」を次世代育成のキーワードに~(3)青少年編~

2015年10月05日 村上芽


ドイツの中学・高校期
ドイツの学校制度は、州によって学校の名称やカリキュラムなどに違いがあるが、中等教育は10歳から18~19歳までを指す。中等教育の学校は、卒業後の進路によって、大学、専門学校、職業訓練のおおよそ3種類に分かれている。最近では、10歳で進路を決めてしまうことの弊害が指摘され、最初の2年間を試行的に捉える観察指導や、3種類を統合した総合学校化を進めるケースもある。
この時期の子ども(青少年)の学校外の過ごし方について、日本と大きく異なる点は、塾がほとんどないこと(大学ごとの入試がなく、高校の卒業試験が重視されるため)、学校内の部活動もほとんどないことが挙げられる。青少年支援施設での学習援助の利用、地域で運営されるスポーツクラブやボランティア活動への参加などが、主な学校以外の時間の使い方となっている。学校外の青少年活動はユースワークと呼ばれ、幼稚園や保育所とともに、児童・青年援助法によって設置されている(注1)。教育やスポーツ、文化活動、職業援助などで家庭や学校の役割を補完する役割を担う。

青少年期における「子どもの参加」
ドイツ北部、シュレースヴィッヒ・ホルシュタイン州では、1996年から16歳以上に投票権がある(ただし対象は地域レベルのことに限られ、国政レベルの選挙や住民投票は対象外)。また、2003年からは、子どもが自分に関係のある地域の事柄に対して、積極的に関わる権利が条例上明確にされている。公共、政治、行政といった領域で、子どもが早くから責任意識を持てることをよしとする風土があるといってよい。
さらに、正式な投票権とは別に、「青少年議会」という仕組みを持つ自治体もある。「青少年議会」とは、市町村の青年担当局が事務局として関わる仕組みであり、日本でいう「子ども議会」に近いが、活発な例をみると、より恒常的な地域の機関として機能いるようである。ここで取り上げるのは、同州南西部のイツェホー市(人口約3万人)で、20年前から青少年議会を有している。具体的な仕組みや活動内容は、下表のとおりである。
図表-1 青少年議会にみる「子どもの参加」事例

参加年齢・立候補・投票できるのは10~19歳。
・市域内の中等教育機関で選挙を行うため、投票権はイツェホー市民に限定されているわけではない。
任期等・青少年議会の議員になると、任期は2年間。再選は可能。
・毎月約2回、5~10時間を費やす。
・活動費は市の予算から出ている。
実績・プレイグラウンド(遊び場、公園)の設置や用地の買収・売却にあたっては、市議会が青少年議会の意見を聞く。
・以前は青少年議会の存在に懐疑的だった市議会議員でも、青少年議会の意見を聞くことで政策の有効性が増す点について意義を認めている。
・市議会と青少年議会の意見が割れた例には、既存のプレイグラウンド用地売却の可否を巡るものがある。市議会では、当該用地周辺に住むのは高齢者が多いから売却しても不都合はない、とした。意見を求められた青少年議会では、近い将来世代交代して住民が入れ替わることを想定し、その際に改めて整備するのは困難との理由から反対。「10年、20年後に引退しているのは市議会議員で、街の中心になっているのは10代」というのが青少年の議論だった。結果、用地売却はなされなかった。
ネットワーク・欧州には青少年議会の国際ネットワークがある。
行政担当・青少年をコーディネートするのは市の青少年局の担当者である。ユースワークとして、学校以外の青少年の生活回りを支援する業務を担っている。イツェホー市の場合にはこの道20年のベテランがついており、表面的ではなく本当に面白くやらせてもらえる、という観点で、学生からの信頼も高い。

青少年へのインパクト① パワーの獲得経験
青少年議会で活動する14歳、17歳、18歳の3人の学生と話をした。彼らに、「自分の参加により、変えてほしい社会現象が少し変えられるかもしれない、と考えるかどうか」と聞いてみたところ、さすがに、「自分は変えられると考える」という返事をくれた(注2)。やはり、青少年議会の活動を通して、市議会を含む大人社会に対して発言していくということを体感し、議会活動参加者は「大人に対してもパワーを持てる」「自分たちにもできる」という実感を育んでいるといえるのだろう。行政のユースワーク担当者からは、これが、自己肯定感や自信につながっているというコメントを得た。このような実感を生むベースとして、活動に対する積極的な関与が必要なことは言うまでもない。
ただ、彼らとしても、自分たち以外の一般の学生では少し感覚が異なることは認識していた。イツェホー市の青少年議会では、議会に直接関わっていない子どもや若者向けのアンケート調査を行ったことがある。それによると、家庭内での意思決定においては自分の意見を出せているという回答が多い(80%)一方で、学校や地域社会においてはそれほど意見を言えていないと考える青少年が多かった(意見を出せているという回答は学校15%、地域社会12%)。青少年議会の活動は、青少年が自主的に参加する学校外活動の1つにすぎないため、子どもが長い時間を過ごす学校や、議会以外の地域社会における活動でも「参加」のコンセプトが取り入れられれば、意見を言いやすいと感じる子どもが増えていくのではないかと考えられる。

青少年へのインパクト② 課題解決とデモクラシーの経験
 ドイツの場合、ヒトラー独裁に対する強烈な反省や、東西分裂時代の東ドイツにおける不自由さを体感した人々の経験から、デモクラシー(民主主義)を擁護・育成しようという意識が強い。「子どもの参加」の推進者の間においても多くの場合、子どもの参加のゴールはデモクラシーを身につけることと考えられている。例えば、あるテーマ(課題)を解決しなければならない場面では、他者との意見の不一致が起こりうる。不一致を解きほぐして解決策を探していく手順は、すなわちデモクラシーだと考えられている。その観点から、参加は与えられる権利であるというよりも、チャレンジであるという表現も聞かれた。つまり青少年期における「子どもの参加」」にも、保育所と根本的には同様に、課題解決の技術や能力を学ぶ効果があると言える。
さらに、何らかの課題解決をしたいという思いがイノベーションを生み出すとすれば、「参加」は2つの側面で役に立つと言える。1つ目は、自己肯定感の醸成を通じた「強い思い」作り、2つ目は、他者と協働して課題解決を実現するためのコミュニケーション技術を学べることである。この点は検証されたわけではないものの、現場の実感として感じられているようである。

 以上のとおり、青少年期においても、「子どもの参加」」によって①自己肯定感の醸成という効果、②課題解決の技術を学ぶ機会提供という役割があることが分かった。ドイツの事例紹介は本稿で終えることとし、次は国内の事例を取り上げてゆくこととしたい。

(注1)生田周二・大串隆吉・吉岡真佐樹(2011)『青少年育成・援助と教育』有信堂
(注2)同じ問いを日本、中国、韓国、米国の高校生に実施し、日本では「変えられるかもしれない」という回答結果が半分に満たず、4カ国中最低だったという調査がある。財団法人一ツ橋文芸教育振興協会、財団法人日本青少年研究所「中学生・高校生の生活と意識」(2009)。
以上

※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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