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技術革新のメガトレンドが市場構造を変える

2015年09月29日 木通秀樹


 昨年末、トヨタが世界初となる燃料電池量産車「ミライ」を発売した。2000年代には1億円以上すると言われた燃料電池システムが、この数年でコストを20分の1に低下させ、700万円で販売にこぎつけたのだ。
 この背景には何があったのか。トヨタの技術陣、経営陣の的確な判断があったことは賞賛されるべきことであるが、それだけでは説明できない。そこには、ナノテクノロジーとIoT(Internet of Things)というミクロとマクロの融合による飛躍的な技術の進化を引き起こす技術革新のメガトレンドが生まれていたのだ。

 近年、ドイツが提唱するインダストリー4.0(第四次産業革命)、アメリカが提唱するインダストリアル・インターネット、などのIoTを中核とする技術革新の流れが話題となっている。これらもメガトレンドの一端である。
 メガトレンドが革新するのは、自動車のみならず、エネルギー、ロボット、医療、ヘルスケア、次世代コンピュータなど幅広い。というのは、メガトレンドがこれらの産業に共通する基盤要素技術を進化させるからである。「設計技術」、「材料技術」、「加工技術」、さらには、これらを統合する「システム化技術」は、この10年で大きく飛躍した。コンピュータシミュレーションは高性能化し、分子レベルの構造設計を実現した。また、ナノテクノロジーによって、その設計図に基づいて材料が高精度に作れるようになった。今では、新材料の開発も、人工知能が行う段階に入っている。
 産業革命は、動力を革新した第一次から始まり、電力システムを作った第二次、ITの第三次と続いてきた。今回は多数の中核産業の要素技術が共通していること、各要素技術がナノテクノロジーによって融合して相乗効果が働きやすくなっていることから、さらに大きな波及効果が期待される。

 技術革新の構造を認識し、そこに根本的な変化が発生することに気付かなければ、時代に取り残されることになるだろう。トヨタは、このメガトレンドにうまく乗ることに成功したということができる。メガトレンドに乗るためには、適切な準備が欠かせない。「ミライ」の開発では、初めにシステムのプラットフォームを作り、組み合わせる技術を万端整えてラストピースとなる技術の進化を待つことで、進化を捉えて素早く市場投入が行われた。これは、iPodなどの開発プロセスとも似たプロセスである。こうした時代では、しっかりと技術トレンドと市場の仮説を持って準備を進めなければ、訪れる波を乗りこなすことはできない。

 特に関係する産業分野では、こうした変化を先取りする経営を目指すべきある。そこには、IT会社が多数生まれた時代のように、規模の大小によらず、多くの企業にチャンスがある。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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