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アジア・マンスリー 2015年9月号

【トピックス】
「一帯一路」構想に邁進する中国

2015年08月31日 佐野淳也


過剰在庫の解消や成長の新しいけん引役としての期待を背景に、習近平政権は「一帯一路」の実現に注力している。国内の過度な期待を抑えつつ、関係諸国との協調重視を貫くことが求められる。

■近年の成長鈍化と在庫圧力の増大が背景
中国経済は、2012年以降成長鈍化が続いており、直近に限れば目標とする+7%成長の維持さえ危ぶまれる状況となっている。それに伴って、一部の業種では過剰設備問題が顕在化しており、増大する過剰在庫の解消が喫緊の課題となっている。

例えば、建設等で用いられる鋼材について、一定期間内の売上高の対生産高比を示す販売率でみると、15年1~3月期は95.8%と、過去最低水準に落ち込んだ。また、中国鋼鉄工業協会が発表した15年6月時点の会員企業の鋼材在庫は、2月に次ぐ過去2番目の高水準であった。これらのデータから、中国国内の鋼材需要が落ち込み、在庫が積み上がっていることがうかがえる。

こうした状況下、過剰在庫の解消に向けて大規模な公共事業や不動産開発が緊急措置として実施されても不思議ではないものの、いまだ大規模な内需刺激策は打ち出されていない。その理由として、①リーマン・ショック後に実施された大規模な景気対策の副作用(不動産市場の過熱など)、②高成長を過度に追求せず、安定成長下で構造改革を推進したい習近平政権の経済運営スタンスなどがあげられる。

■「一帯一路」構想は提唱から実行段階へ
こうしたなか、「一帯一路」構想が景気刺激の有力な代替策として注目されはじめた。同構想は、習近平国家主席が2013年のアジア歴訪中に提唱したもので、①中央アジア経由で陸路欧州に至るシルクロード経済ベルト(一帯)、②中国沿海部と東南アジアなどとを海で結ぶ21世紀の海上シルクロード(一路)の2ルートから構成される。

当初、近隣諸国との連携強化に向けた外交戦略とみられていたが、上述の状況も踏まえ、「一帯一路」構想は、過剰在庫の解消や成長の新しいけん引役としての性格を強めていく。15年3月に国家発展改革委員会、外交部、商務部の3省庁連名で発表された「シルクロード経済ベルトと21世紀の海上シルクロード共同建設促進のビジョンとアクション」(以下、「ビジョンとアクション」)では、政府のそうした方針が前面に押し出されている。

まず、「一帯一路」は、「アジア・欧州・アフリカおよび世界各国の互恵協力強化に必要」と述べる一方、域内市場の掘り起こしや各国の内需拡大にも有効といった趣旨の方針を表明した。その対象には当然ながら、中国も含まれよう。

さらに、インフラ整備の加速などを沿線各国に呼び掛け、そのうえで中国の取り組み方針として、「自国企業が沿線諸国のインフラ建設や産業投資に加わることを奨励する」と明言した。また、「一帯一路」の対象国・地域と隣接する省や自治区に対し、対外開放と経済発展を加速させ、窓口としての役割を果たすよう求めると同時に、他の地方にも「一帯一路」への積極的な協力を促す文言も盛り込んでおり、「一帯一路」構想を中国国内の地域発展と連動させる意向を示している。

金融面の整備や関連措置も進展している。「一帯一路」沿線各国がインフラ投資を行うにあたっては、資金不足が大きなネックとなっている。これに対し、中国はすでにシルクロード基金を創設し、パキスタンの水力発電所建設への投資を同基金の第1号案件に選定している(15年4月)。さらに、中国が最大の出資国であり、最大の議決権を有するアジアインフラ投資銀行(AIIB)を設立し、年内の業務開始を目指している。

関連措置では、鉄鋼や建材などを重点業種と位置付け、その生産設備や装置の海外進出を政策面から支援(規制緩和、情報提供)することを決定した。中央政府は、支援策の重要性を事あるたびに強調し、その拡充にも注力している。

■構想の成否を左右する2つの主要課題
「一帯一路」は、提唱段階から実施段階に移行しはじめている。同構想が今後、中国国内の過剰在庫を解消し、成長の新しいけん引役となるためには、以下の2つの課題への適切な対処が不可欠である。
第1に、過剰投資の抑制である。例えば、地方政府は、「一帯一路」構想を地域発展の絶好の好機ととらえ、対応策を積極的に講じている。これ自体は適切な対応と考えられるものの、「一帯一路」への貢献を大義名分に、投資規模を闇雲に拡張し、非効率な投資案件を行えば、過剰在庫問題を一段と深刻化させる結果となりかねない。

第2に、関係諸国との協調路線の継続である。海外に進出した中国企業が現地の雇用や経済発展に貢献していないとの批判は根強い。AIIBによる融資の際、中国が自国優先の対応に終始すれば、他の出資国の反発を引き起こし、AIIBは機能不全に陥りかねない。

「一帯一路」構想に込めた所期の目標実現に向け、習近平政権には、国内の過度な期待を抑えつつ、「ビジョンとアクション」で掲げた近隣諸国などとの協調重視を貫くことが求められる。
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