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日本総研ニュースレター 2015年5月号

求められる海外市場を見据えた水素ビジネスの立ち上げ

2015年05月01日 段野孝一郎


燃料電池自動車で幕が上がった日本の水素社会
 トヨタ自動車によって燃料電池自動車「ミライ」が発売されて以降、水素社会の到来が現実味を帯びてきた。経済産業省は燃料電池自動車の購入に関する補助金を拠出し、東京都も同じく燃料電池自動車への支援を行っている。ミライの市販価格は700万円だが、東京都内で国・都の補助を両方活用すれば、実質的に400万円で購入が可能だ。
 車両と供給インフラは「ニワトリタマゴ」の関係に例えられる。燃料電池自動車の普及を進めるには、ユーザーが安心して出かけられるように、燃料供給インフラの整備も合わせて進める必要がある。ミライは発売1カ月経過時点で1,500台の受注を記録したとされており、好調な滑り出しを見せているが、一方の水素ステーションの数はまだ十分でない。
 政府は燃料電池自動車の燃料供給拠点の整備を進めるため、水素ステーション建設への大型の補助を拡充している。まずは四大都市圏の整備を集中的に進める計画であるが、宮城県など、水素ステーション建設の補助対象地域の拡大を狙って、検討を進める地域も現れてきた。また、大型の定置式以外の水素ステーション等の整備も進められる予定である。豊田通商、岩谷産業および大陽日酸が出資・運営する日本移動式水素ステーションサービスと三井住友ファイナンス&リースでは、移動式の水素供給設備を初期投資が軽減できるリース方式で提供することを計画している。特に車両台数が少ない普及初期においては、大型の定置式水素ステーションを補完するインフラとして機能することが期待される。

燃料電池自動車以外での需要創出が欧米で活発化
 一方で諸外国を見渡すと、燃料電池自動車以外の水素需要創出に様々なアプローチで取り組んでいることが分かる。
 例えば米国では、工場や倉庫等において燃料電池フォークリフトの導入が進められており、既に4,500台以上の燃料電池フォークリフトが稼動しているとされる。米国政府がフォークリフトに搭載する燃料電池ユニットコストの3割相当分を支援しており、蓄電池の充電時間と比べた場合に圧倒的に短い充填時間によって交換用の予備蓄電池が不要になること等の経済性を考慮すると、従来の蓄電池フォークリフトに比べて、燃料電池フォークリフトが有利な状況になりつつある。
 イタリアでは水素需要が見込める用途として、水素発電の開発を進めている。現在までの実証の結果、水素のみで発電を行う水素専焼発電はコスト面で商用化困難との結論が得られているが、LNGと混ぜて発電する水素混燃発電であれば、安定した発電が可能である。わが国でも川崎市で実証が行われる予定であるが、早期の商用化に期待したい。
 ドイツでは、風力発電等から得られる再生可能エネルギーの余剰電力を活用し、水を電気分解して水素を生成する取り組みが拡がりつつある。また、水素輸送コストの合理化のため、再生可能エネルギーで製造した水素(グリーン水素)については、直接あるいはメタンガス化(Methanation)を経て、都市ガス導管に混合して利用する「Power to Gas」に注力している。ユーザーは再生可能エネルギー由来のグリーン水素を、燃料の一部としてCNG(圧縮天然ガス)ステーション等で活用できる。例えば高級車メーカーのアウディでは、メタンガス化プラントを立ち上げ、自社のCNG車両用に「Audi e-gas」ブランドで燃料供給を開始している。LNGを専ら輸入に依存するエネルギー需給構造となっているドイツでは、水素を都市ガス代替として活用することはエネルギーセキュリティの向上に直結する。水素の利活用において輸送コストの軽減は重要課題の一つであり、ドイツ同様に輸入LNGへの依存度が高いわが国でも、都市ガス混合利用は積極的に取り組むべきテーマであろう。

多面的な水素需要創出が海外展開に不可欠
 以上のように、欧米では様々な用途での水素の利活用が推進されている。それらに比べ、水素社会の構築が始まったばかりの日本の水素ビジネスは、燃料電池自動車関連に重点を置き過ぎているように見える。
 水素ステーションをはじめとする水素供給インフラの整備を進めることはもちろん重要ではあるが、その先の海外展開を見据えて、燃料電池自動車以外の水素需要創出に目を配り、水素社会実現に向けた事業を多面的に推進することも必要だろう。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません
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