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「CSV」で企業を視る/(33)働きやすい職場環境と共有価値創造(最終回)

2015年07月01日 ESGリサーチセンター、小島明子


 本シリーズ最終回となる今回は、共有価値創造の手法である「バリュー・チェーンの生産性を再定義する」という実践を通じて、「共有価値」の創造につなげようとしているフェリシモ、永谷園の事例を紹介する。

フェリシモの多様な部活動
 フェリシモは、自社の企画商品を中心に、カタログやウェブなどの独自メディアを通じて、顧客向けに販売をしている小売企業である。ファッション、生活雑貨、手づくりキット、美容関連など商品を幅広く取り扱っている。経営理念である「しあわせ社会学の確立と実践」の下に、事業を通じた顧客、ビジネスパートナー、従業員、株主の価値の最大化を目指している。

 同社では、業務時間である毎週水曜日の午前中に、従業員が部活動を行うことができる。部活動には、「女子DIY部」、「森活部」、「猫部」など様々な部活動があり、部門や職位に関わらず、従業員は自分の興味ある部活動に任意で参加することができるようになっている。
 例えば、「猫部」は、猫好きの従業員が集まるコミュニティで、猫と人とがともにしあわせに暮らせる社会を目指している。猫部のホームページでは、毎週、猫部に所属する従業員が猫に関するブログを更新しながら、ホームページに投稿された声を取り入れた、猫グッズの商品開発も行っている。販売金額は、フェリシモの猫基金に寄附をされ、動物の保護活動や里山支援活動ために運用される。2015年1月に発売された猫のマシュマロ「ニャシュマロ」は人気商品となり、猫グッズは、マルイでも期間限定で販売されるなど、同社の本業にも貢献している。

永谷園の生姜部活動
 永谷園は、お茶漬けや味噌汁などの和風即席商品に強みをもっている。現在は、「新しい価値の提案による顧客開拓・拡大」をテーマとして取組み、ポリフェノールの一種であるケルセチンを配合したたまねぎスープや1食あたり1/3本分相当の食物繊維が入った粉末タイプのインスタントスープなど、常に新しい商品を開発し続けている。

 永谷園では、素材である生姜に着目し、社内の部門や職位を超えて、生姜好きの人材が集まる場である生姜部を設置している。生姜部は、顧客にとって価値のある商品を作るために活動し、自社で生姜を育てることから始めている。生姜部の従業員は、ブログを執筆しており、そのなかの「ぶらり生姜食べ歩き」コーナーでは、従業員が実際にレストランを食べ歩き、生姜に関わるメニューを味わった経験が綴られている。
 「冷え知らず」さんの生姜シリーズである、生姜カップスープ、生姜湯をはじめとし、生姜部の活動によって、既に商品化された商品も出てきている。

 フェリシモと永谷園に共通していることは、部門や職位を超えて、従業員自身が興味関心のあることに取り組めるという、自由で個人が尊重される職場環境が提供されていることである。それは、新しい商品開発という成果にもつながっている。

 国内では、今後、労働人口が減少し、優秀な人材の獲得は益々厳しくなることが予想される。一方で、グローバル競争の激化により、価値のあるサービスや製品の創出は、多くの企業にとって重要な課題である。働くことを楽しくする職場環境の提供を通じて、自社の従業員の士気を向上させ、従業員の能力を最大限に発揮できる企業こそが、価値のあるサービスや製品創出のきっかけを掴み、成長に繋げていくことができるのだろう。

参考情報
[1]株式会社フェリシモホームページ
[2]株式会社永谷園ホームページ


*この原稿は2015年6月に金融情報ベンダーのQUICKに配信したものです。
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