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自治の力で地域交通を再生し、自動運転技術の実用化を

2015年06月09日 武藤一浩


 わが国の国力減退の大きな原因の一つとして、急速な人口減少が大きく取り上げられています。しかし、三大都市圏の人口はむしろ増加傾向にあることから、わが国の人口減少問題とは、国の総人口自体の減少もさることながら、実質的には地方から大都市圏への、特に若者を中心とした急速な人口移動のことを指しています。

 地方から若者が去っていく原因に「移動の不自由さ」があります。通勤・通学をはじめ、通院や娯楽、人との交流など、移動することなしに人々の生活は成り立ちません。人口密度が希薄化した地域ではビジネスが成り立ちにくくなるため、交通をはじめとしたサービスや店舗、そして働き口までが減少し、それが人口減少に一層拍車をかけてしまうのはご承知のとおりです。いくら自分の生まれ育った地域に愛着があっても、例えば通勤バスを一度乗り逃すと1時間待ち、帰りの最終便が夜8時台といった状態のままの生活を続ける選択をする人は多くないと思います。しかし、だからといって商業ベースに乗らない公共交通を行政の補助金に頼りながら維持し続けることは、財政難の下では原則的に許されません。

 そこで日本総研で進めているのは「住民による自治の力」を活用した新しい地域交通の仕組み作りです。公共交通の維持は幹線にあたる部分に限定し、毛細血管にあたる部分は既存の公共交通サービスに依存しない、住民による自治を基本とする考えです。その最大のポイントは、「住民自らが運転する」ことにあります。「乗り捨てられる車両や停車場所を『住民で共有保有』し、移動したい人が自ら幹線とつながるところまで運転する」「子供や運転できない人のためには、住民同士による『相乗り』を促進して対処する」といった仕組みを住民自らが構築し、運用をし易くするシステムを提供する試みを進めています。

 昨年度、神戸市東灘区の渦が森地域において簡単な実証を行いました。実際、住民が車両の停車場所を住宅の敷地内で提供しあったり、相乗りで移動を助けあったりすることが確認できました。実証後のアンケートの結果もおおむね好意的で、「相乗りで狭い空間を共有することによって住民同士のコミュニケーションのきっかけとなり、コミュニティの醸成や強化につながる」など、私たちが提唱する新しい地域交通の仕組みに期待を寄せるご回答をいくつもいただきました。なかには、次回の実証では車両の停車場所だけでなく車両自体も提供してよいというお申し出までありました。

 この新しい地域交通の仕組みは、原理としては住民同士がスマートフォンなどで車両や移動予定の情報を共有するためのシステムと車両整備体制があれば実現可能です。また、将来的には、相乗りする車両の安全・安心走行と毛細血管にあたる地域内の隅々までの移動を可能とする自動走行といった自動運転技術の導入を展望しています。こうして、利便性が格段に高まれば、「生活が成り立つ地域」も格段に増えると考えています。

 ただし、現在のところ、実現には様々な法制度・規制が存在しています。我々シンクタンクの役割は、確かに存在する住民のニーズを汲み取り、法制度・規制に丁寧に対処して、この新しい地域交通の仕組みを実現させていくことにあります。

 地方創生は、まち・ひと・しごと創生法の目的に掲げられているように「東京圏への人口の過度の集中を是正し、それぞれの地域で住みよい環境を確保して、将来にわたって活力ある日本社会を維持していく」取り組みだと思います。前述のとおり、地方が衰退する主な原因の一つが交通サービスの減少にあるのであれば、地方が住民の自治の力で解決できるよう取り組みを加速させつつ、将来的にわが国の自動運転技術の導入・実用化を世界に先駆けて実現することへ寄与したいと思い、取り組みを進めています。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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