コンサルティングサービス
経営コラム
経済・政策レポート
会社情報

経営コラム

オピニオン

「CSV」で企業を視る/(32)エイジングケアと共有価値創造

2015年06月01日 ESGリサーチセンター、小島明子


 本シリーズ32回目となる今回は、共有価値創造の手法である「顧客ニーズ、製品、市場を見直す」という実践を通じて、「共有価値」の創造につなげようとしているミルボンの事例を紹介する。

 ミルボンは、業務用ヘア化粧品の総合メーカーとして、国内トップシェアを誇る大阪の企業である。美容文化は、欧米諸国によって持ち込まれたものであるが、創業以来、日本独自の製品や技術開発を進めてきた同社は、日本独自の美容技術や製品を海外に広げる企業にまで発展している。

 同社では、2014年12月から中期事業構想(2015年から2019年)をスタートさせ、ブランドステートメントを新たに変えている。新しいブランドステートメントは、「すべては、女性が美しく生きるために。私たちは一人ひとりの女性に、自分らしさ、心の豊かさ、人生の彩りを価値にして届けます。ヘアデザイナーと向き合い、磨き上げた結晶から、生れ落ちる美しさ。それは、私たちだけが創れる確かな価値。女性が美しい髪を自信に、新しい世界にはばたけるよう、私たちは今ここにない未来を創り続けます。」である。同社がブランドステートメントを変えた背景として、これまでは、美容室を顧客としたB to B企業との認識で、専らヘアデザイナーの視点で市場を捉えてきたが、新たに、美容室を利用する顧客の視点を認識し、B to C企業の視点を獲得しようとしている変化があげられる。

 2015年に新たに定めた日本向けの中期エリアビジョンには、「少子高齢化世界に先駆けたエイジング日本美容モデルの創出。多角的なエイジングイノベーションによる生産性向上」が掲げられている。エイジングケア事業は、今までも行われてきたが、美容室を利用する顧客視点で市場を見直した上で、同社の経営ビジョンのなかに、高齢化に対応したイノベーションの創出を明確に位置付けたのは今回が初めてである。
 
 同社の株主向けの報告書には、年齢を重ねた地肌とエイジングダメージ毛を同時にケアする商品シリーズ(プラーミア リファイニング)や、年齢とともにまとまりづらい髪が生える地肌をケアする商品(オージュア オーセナム)、白髪でも安心して染められるカラー商品(ヴィラロドラ カラー)などが紹介され、エイジングケアに向けた製品に注力していることが窺える。また、同社の研究所では、エイジングケアの研究に注力しており、最近の研究では、日本人女性の黒髪と白髪の含まれる脂質量の違いを初めて発見し、白髪の方が黒髪よりも脂質量が多いことを明らかにしている。

 「平成26年版厚生労働白書 健康長寿社会の実現に向けて~健康・予防元年~」によれば、日本の平均寿命は延び続け、女性の平均寿命は86.41年である。しかし、「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」である健康寿命となると、平均寿命との間に約10年近くの差がある。健康寿命を延ばし、平均寿命と健康寿命の差を縮めることは、日本の社会保障費の削減に向けた社会的課題への対応策の1つである。

 健康寿命を延ばすための取り組みとしては、食生活を改善すること、運動を行うこと、人と交流することなどがあげられる。歩行障害や認知症などのリスクは、外出機会が減ることが原因になるため、高齢者の外出を増やして人と交流することがそのリスクを軽減することにつながることが知られている。このとき、高齢者に外出の意欲があるか否かが鍵を握る。

 上場企業であるトレンダーズが、2012年に25~49歳の女性を対象に実施した調査によれば、回答者の8割が「自分は実年齢以下に見える」と回答し、「理想の見た目年齢」の平均は実年齢に対して「マイナス6歳」であった。女性は、自身の外見に対して年齢よりも若く、若い見た目を維持したいという気持ちは強い。それは年齢を経ても大きく変わるものではないと想像される。年齢を経ても外見を美しくすることが、外出への意欲を向上させ、外出機会を増やすことにつながるという仮説を考えると、同社のエイジングケア事業の意義を理解できよう。

 エイジングケア事業の果たす役割が期待されるなか、B to BからB to Cへ視点を広げて高齢化に対応したイノベーションの創出を明確に経営ビジョンのなかに位置づけた同社の今後の動向に注目したい。

参考情報
[1]株式会社ミルボンホームページ
[2]厚生労働省ホームページ


*この原稿は2015年5月に金融情報ベンダーのQUICKに配信したものです。
経営コラム
経営コラム一覧
オピニオン
日本総研ニュースレター
先端技術リサーチ
カテゴリー別

業務別

産業別


YouTube

レポートに関する
お問い合わせ