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日本総研ニュースレター 2015年2月号

Well-beingビジネス発展の突破口は妊娠・出産期の女性

2015年02月02日 田川絢子


医療保険「外」サービスの産業創出が必要
 増え続ける社会保障費を抑制しつつ、国民の健康寿命の延伸を図るために、保険外サービスの充実が求められるようになった。
 今のところ未発達な保険外サービスを社会インフラとして機能させるには、多くの企業が参入し、競争によって各サービスのレベルが高まることが不可欠だ。現在、フィットネスサービス程度しか確立していない関連サービスの産業化は急務といえる。2014年改訂の日本再興戦略の中でも、保険外サービスを含む健康寿命延伸産業の創出が明示され、関連産業の市場規模を2020 年に10 兆円(現状4 兆円)まで拡大する目標が掲げられた。
 特に、公的医療費の抑制は世界的なメガトレンドであり、健康寿命延伸産業は中長期的な成長が見込まれる。既に、医療分野をはじめ、アップルやグーグルなどまで多種多様な企業が進出を検討・開始している。
 しかし、実際にはなかなか活路が見いだせないケースも多く、既に撤退する企業も現れ始めた。特に、約7,000万人の健康・未病状態の人に向けたWell-being(健康増進)ビジネスは、本人の自覚や目標、意識次第でアウトカム(期待値に対する結果)が異なる。また、本人に差し迫った危機感がないため、合理的・計画的に購入したい財とはなりにくく、新たな消費にはつながっていない。

セグメントごとの価値提供が不可欠
 Well-beingビジネスの継続には、個々人が感じる悩みやアウトカムを的確につかみ解決する商品の提供だけでなく、プロセスから結果までを可視化し本人に効果を実感させる仕組みが欠かせない。
 また、「健康である」ことの感覚は個々人で異なるため、国民広く一般に対しての一般的な価値提供では意味を成さない。そのため、健康増進ニーズに対してある程度同質のセグメントを抽出し、ターゲットを絞り込むことが重要だ。
 消費者である健康・未病状態の人の健康意識を大きく「健康高関与層」「潜在的健康関心層」「無関心層」の3つに分けて考えると、このうち健康高関与層と無関心層は新たなサービスの対象とはなりにくいことが分かる。いわゆる健康オタクの前者は既に自らが必要と考える商品・サービスを購買しており、これ以上支出を増加させることは難しい。健康に全く関心のない後者は、費用対効果が低過ぎる。
 つまり、Well-beingビジネスの成否を握るのは、全体の70%を占める、潜在的健康関心層だ。特にこの中の3割強を占める「さまざまな情報を入手しては試すが続かない層」は健康投資意欲があり、他人への波及効果が強いという特徴を持ち、高い費用対効果が見込める。

妊娠・出産期の女性の波及力と長期的な商機に期待
 この層の7割を構成する「女性」こそが、最初に着目すべき有力なターゲットと言える。女性に対し、企業側がアプローチすべきタイミングは、著しい体調変化のほか、新たな家族への健康意識も高まる妊娠・出産の時期が最良と考えられる。6歳までの子を持つ女性は約550万人と推計され、母数としては多くないが、ママ友など周囲への波及の強さや、若年層が多いことから長期的な商機が見込める。さらに、子を持つ女性への手厚いケアは女性の社会的活躍にも貢献し社会的意義も大きい。既に花王やユニ・チャーム、ベネッセといった母子向けの商品・サービスを展開する企業が母親たちを集めるコミュニティサイトなどを運営し始めた。
 一方、そうした女性の悩みは、産後特有の抜け毛やストレスをはじめ、体力の衰えや頭痛といった不定愁訴、そして見た目にかかわる肌・体への不満など幅広い。こうした悩みの解決には、スキンケアから健康食品、サプリメント、睡眠といった多様な商品・サービスから最適なものを抽出し、提供、効果の計測・可視化をワンストップで行うことが求められる。
 つまり、彼女たち向けの商品・サービスは、単一企業だけでは提供しきれない。前述のアップルやグーグルが進出してきたのも、顧客情報の収集・蓄積・分析を行うICT企業が基盤となり、健康美容商品・サービス事業者群や流通機能などが集積するモデルがWell-beingビジネスの主流になると見込むからだ。こうしたモデルは、いずれ子を持つ女性だけでなく、悩みを抱えるあらゆる消費者を対象としたモデルに進化するはずだ。まずは費用対効果の高い妊娠・出産期の女性を入り口として、長期的に連携する企業連合の構築が必要といえる。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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