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日本総研ニュースレター 2015年1月号

アセアン経済共同体(AEC)時代に日本の歴史的資産を活用せよ

2015年01月05日 副島功寛


多様で成長力に富む経済圏のはじまり
 2015年末、アセアン経済共同体(AEC)がスタートする。AECは、(1)単一市場と生産基地、(2)競争力ある経済地域、(3)公平な経済発展、(4)グローバル経済への統合という四つの柱に基づき推進される。AECは緩やかな枠組みとされ、短期的には域内諸国に与える変化は限定的だが、関税や非関税障壁の撤廃などを中長期的に進めながら存在感を強め、域内諸国の経済地図を塗り替えていくと思われる。
 想定される統合効果の一つは、生産体制の効率化だ。域内諸国の人件費等のコストや人材の教育レベル・素養の多様性を活かせば、域内でも高付加価値品から低付加価値品まで幅広く効率的に生産できる。もう一つの効果は、製品開発力の向上だ。域内諸国の成長に応じて生まれる様々なニーズに応えるため、多様な製品を素早く開発する機能整備が進むことが予想される。そこで開発・生産される製品は、域内はもちろん、域外の新興国でも競争力を持つことが期待できる。AECは、グローバル展開する戦略製品を開発・生産するサプライチェーン構築を後押しするのだ。

タイの生産機能の高付加価値化を阻む課題
 なかでもアセアンの中心に位置するタイは、日本の製造業の累積投資額が3.26兆円(2013年末時点)に至り、バンコクから東南部にかけての一大産業集積を発展させてきた。今後は、日本企業が進める現地開発拠点整備や、タイ政府による新たな投資優遇制度の導入等の後押しを受け、高付加価値化の方向へと向かうだろう。また、アジア開発銀行等による総額513億ドルに及ぶ大メコン経済圏開発プロジェクトの一つである、ベトナムとカンボジアを結ぶヌアックルン橋が2015年2月に竣工すれば、バンコク、プノンペン、ホーチミンの三大都市が陸路で結ばれる。こうして南部経済回廊が完成することによって、域内の国際分業の拠点としてのタイの地位は一層高まるはずだ。
 既に、このタイを取り込もうとする各国の動きは活発化しており、特に、中国がタイに総延長867km、1兆2000億円を超える投資を伴う鉄道建設計画の覚書を2014年12月に締結したニュースは関係者を驚かせた。タイにとって中国の資金力は非常に魅力的だ。
 しかしタイにとって必要なのは資金だけではない。アジア通貨危機克服後のタイは堅調な経済成長を続けてきた一方、産業セクターへの成長投資を優先するあまり、環境対応や産業構造の転換に伴う再開発に十分な投資をしてこなかったツケに苦しんでいる。激しい環境汚染によって60を超える事業会社が操業停止に追い込まれたマプタプット工業団地の例もあり、今後、新たな環境汚染や健康被害が生じたり、工場などが「迷惑施設」として新たな開発が制限されたりするリスクがある。

日本の切り札は政策・事業ノウハウ
 今後のタイの持続的な発展に欠かせない、環境対応や再開発のための経験や政策・事業ノウハウについては、1960年代以降、実際に問題を解決しながらノウハウを蓄積してきた日本の公共・民間両セクターに大きなアドバンテージがある。例えば、汚染を引き起こす中小工場に対し、強制執行と政策的なインセンティブを組み合わせ、移転や高度インフラ投資などの対応を促す政策ノウハウをはじめ、1980~1990年代に全国各地で進められたリサイクル企業が集積するエコ工業団地の開発ノウハウ、そして2000年代以降に進められたスマートコミュニティの開発ノウハウなどは、現地からも今後取り込むべき知見として注目されている。
 日本企業にはノウハウの提供やハード輸出だけでなく、現地企業との共同事業への投資が期待される。現地では優れた環境技術を活用した設備を導入しても、運営維持管理が不適切なため数年で施設を解体したケースが複数報告されている。持続可能な処理システムの構築にまで踏み込み、長期的な目線で現地企業と共同で事業を行うことが重要だ。
 タイは国を二分した政争を経て、現在は軍事政権となっているが、2015年10月以降の総選挙を控え、政策を意欲的に推進している。いずれ迎えるAEC時代を前に、日本が蓄積してきた歴史的資産を活用し、現地の課題解決を図ることも含めた提案を行うことで、日本企業のビジネスを展開させていくべきだ。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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