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日本総研ニュースレター 2014年12月号

地域生活支援事業体として機能する「日本版シュタットベルケ」の創出を

2014年12月01日 前田直之


「地域経済循環」の仕組みづくりが地方創生の必須条件
 先日の衆院解散によっていくつかの重要法案が先送りとなった一方、政府は「地方創生」の関連2法案は解散前に可決させ、日本経済の再興にとって地方経済の活性化が最も重要な課題と捉えていることを強く示した。東北復興需要と五輪を中心とした首都圏需要に人や資材が集中していることもあり、公共・民間双方の投資が十分とはいえない地方部の状況への危機感が後押しした格好だ。
 今までの地方活性化策でまず頭に浮かぶのは、公共工事だ。しかし、従来型の公共工事を推し進めても、人口が減少する地方では大きな税収増もないまま後年の維持管理費用を増大させる要因となりかねない。短期的な直接効果が見込まれても、公共インフラによって継続的に生み出される雇用や経済波及効果は、公的部門のサービス分野に限定される。
 「地方創生」を真に実現させるには、従来の概念を捨て、地域における持続的な経済循環を生み出す事業モデルを作り出すことが必要だ。

地域経済のエンジンとなる「地域生活支援事業体」
 ドイツには、公共が整備した事業環境を活用し、民間の人材やノウハウを取り込みながらエネルギー事業を行う「シュタットベルケ」と呼ばれる公的な地域事業体が各地に存在する。電力、ガス、熱供給、上下水道などの生活インフラと、公共交通や他の住民サービスなどを総合的に提供するシュタットベルケの資本の過半は税金で支えられ、生活インフラサービスは安定的なキャッシュフローを創出する。しかも公的資本への配当は不要だ。その代わり、市民生活を向上させる「公的事業への再投資」と「雇用の創出」が使命となっている。
 シュタットベルケの事業領域のうち、電力事業においては、自由競争にさらされた市場環境にある。その中でも、シュタットベルケは地域事業体としての地域密着性、公的信用、他の付帯サービスでの付加価値を源泉として、競争力を維持し十分な顧客シェアを確保している。
 このように、わが国においても、地域の生活に密着したサービスを提供し続ける「事業体」を組成することにより、雇用や資金循環を生み出すことが期待される。

日本版シュタットベルケを官民で生み出すためには
 わが国の地方経済活性化でも、シュタットベルケのような「地域事業体」を作り出し、地域の経済循環を最大化させるべきではないか。そのために必要な取り組みを3点挙げる。
 一つは、事業基盤の構築を短期的な資金回収効率ではなく、中長期的な地域経済への便益で判断することへの合意だ。例えば市民や地元企業の活動を支えるエネルギーインフラを整備する場合、エネルギー事業の収支だけで採算を判断するのではなく、そのエネルギーが生み出す産業活動や市民生活という二次、三次の波及効果も含めた便益を見込むべきだ。また、シュタットベルケのように、長期の資金回収に見合った減価償却期間を設定することも重要だ。
 二つ目は、サービスの高付加価値化だ。シュタットベルケでは、電気やガス、通信、交通などの地域性・顧客接点を重視するサービス基盤を生かしつつ、福祉や教育、買物、文化・娯楽などのサービスを総合的・効率的に提供することで市民の支持を獲得している。地域に密着しているからこそ、市民の多様なニーズを的確に捉えたサービスを包括的に提供し、サービス全体の提供価値と事業体の信用を高めることが可能となっている。
 三つ目は、官民の融合だ。シュタットベルケのような事業基盤を構築するには、公共側にはリスクマネーを投じる覚悟が必要だ。代わりに民間側は「市民のための事業体」として、純粋な資本主義による成長前提の事業戦略ではなく、地域における持続的な経済循環の創出を理念とした経営を実現する必要がある。公共側が投資した事業基盤の上ではそれが可能である。なお、ドイツでは、不採算の公的サービスを提供する場合に採算性の高い事業からの収益を補填することを会計制度上で認め、シュタットベルケの「公的事業への再投資」を税制面から支えている。
 地域内での持続・循環を目的とした官民融合型の事業の構築を図ることが、これからの地方創生に求められる。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません
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