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経営者が評価するデザイナーの3つの力

2015年03月10日 丸尾聰


 一昨年、農業機械メーカーのヤンマーが、工業デザイナーの奥山清行氏を社外取締役に起用して、話題になりました。このニュースを聞いたとき、「経営の現場に、デザイナーが役に立つのか」と疑問に感じた人は少なくなかったようです。一方、海外では、経営陣にデザイナーを迎える企業や、社長直属のデザイン室を配置する企業が以前から存在します。こうした企業の経営者は、デザイナーの持つどんな力を評価して、経営の現場に登用するのでしょうか。

 1つめの力は、「観察力」です。一般にデザイナーというと、アウトプットのセンスで勝負しているように思われますが、実は、インプットのスキルが高いのです。一般の人は、モノや現象をみる時に、大量の情報を捨象しています。知識や経験や好き嫌いによって、見たいものと見たくないものを無意識に選別しているからです。デザイナーは、そうした先入観を持たずに、ありのままのモノや現象をそのまま受容しようとします。デザイナーはイメージの記憶力が高い、と言われますが、先入観に惑わされない分、あるいはそれにより情報を捨象しない分、認識できる情報量が一般の人より格段に多くなるのです。この情報認識する力、すなわち「観察力」によって、経営の判断材料を、短時間かつ豊富に獲得することが出来るのです。

 2つめの力は、「矛盾整合力」です。一般にデザイン行為というと、異彩を放つグラフィックや存在感のある製品など、独自のコンセプトを貫く行為に思われますが、実は、デザインによる自己主張の強さと周囲の環境との調和、依頼主から突きつけられる豊富な機能と厳しいコストなど、相矛盾する要求や要素を整合させる行為なのです。誤解を恐れずに言うと、矛盾を整合させることにアイデアを絞ることこそ、デザインなのです。デザイナーは、上述したように、高い観察力によって、膨大かつ複雑な要素を認識し、それら要素の分類、整理を行います。そして、その作業のなかで、要素間の矛盾点を見つけ出した時が、デザイン行為のスイッチが入る時なのです。企業経営も、売上と利益、顧客満足と従業員満足など、矛盾を整合する行為の連続です。デザイナーの鍛え抜かれた「矛盾整合力」が企業経営の問題解決に寄与することが出来るのです。

 3つめの力は、「捨てる力」です。一般にデザイナーの能力の高低というと、色と形を駆使した装飾を「加える力」の差にあるように思われますが、実は、全く逆の「捨てる力」にあるのです。アップルの製品群のように、世界中で受け入れられる製品には、概ねシンプルさを兼ね備えています。デザインの初期段階では様々なアイデアが浮かび、それを具体化するため、次々に要素が加わり、複雑さが高まりますが、最終段階には、そのアイデアやそれを具体化した要素を、大胆に捨てるため、シンプルさが高まるのです。経営者も、限られた資源の中で持続的競争優位を築くために、ありとあらゆるアイデアの中から選択と集中を、すなわち「捨てる」ことをしています。対象は異なりますが、デザイナーも「捨てる」ことに常に実践しているのです。

 複雑化を増す事業環境の中で、経営者は、より確かな判断を、より迅速に行うことが求められています。市場の観察や、自社と市場との関係性認識、事業の選択と集中、といった重要な判断の場面で、デザイナーの持つ「3つの力」は、経営の現場で、今後ますます求められてくると思われます。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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