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アジア・マンスリー 2015年3月号

【トピックス】
貿易黒字になった韓国の対日自動車部品貿易

2015年03月02日 向山英彦


韓国では慢性的に対日貿易赤字が続いているが、自動車部品分野の貿易収支が黒字になったことが注目される。黒字化に関しては、自動車産業におけるグローバル化の動きが影響している。

■黒字に転じた対日自動車部品貿易
韓国では2014年の輸出額(ドル建て)が前年比+2.4%、輸入額が+1.9%となり、貿易収支は475.3億ドルの黒字となった。黒字額は前年を上回った。

対日貿易に関しては、輸出額が▲7.0%、輸入額が▲10.4%となり、215.3億ドルの赤字となった。貿易額が縮小する(円安・ウォン高によりドルベース金額が減少した影響も)なかで、対日貿易赤字額も減少しているのが近年の傾向である。対日輸入額の減少には、韓国の輸出の増勢が鈍化したことにより生産財輸入の勢いが鈍化したこと、以前輸入していたものが現地生産に切り替わったことなどの影響も指摘できよう。

昨年の対日貿易において注目されるのが、自動車部品分野(SITC784)が13年に続き黒字となったことである。2000年代以降の動きをみると、対日輸出額が増加基調(09年はリーマン・ショック後の世界経済減速の影響で減少)で推移しているのに対して、対日輸入額は10年をピークに減少している。韓国では部品素材産業の強化を図り対日貿易赤字の是正を図っているが、自動車部品貿易の黒字化は、自動車産業におけるグローバル化が影響したと考えられる。

■輸出増加の背景にある自動車産業のグローバル化
自動車部品の輸出には、①海外で生産する韓国系メーカー向けの輸出、②海外完成車メーカーへの直納、③ディーラーや修理業者に対する供給などがある。

まず指摘できるのは、完成車メーカーの海外生産拡大に伴い輸出が増加していることである。現代自動車グループ(現代自動車+起亜自動車)は、2000年代に世界市場で販売を伸ばした(現在、販売台数で世界第5位のグループ)。1995年には先進国が世界の自動車販売台数の8割近くを占めたが、2010年に新興国が5割を超えた。この新興国市場での販売拡大が同グループの躍進につながった。
現代自動車の海外生産の動きをみると、カナダ工場の閉鎖後、新興国とくにBRICsを中心に海外生産を行ってきたことがわかる。大手の部品企業は完成車メーカーに随伴して進出するケースが多いが、現地で生産できない部品は韓国から輸入する。

実際、現代自動車の海外生産と歩調を合わせるかのように、韓国の自動車部品輸出額は2000年代に入り急増した。輸出全体に占める割合は4%台へ上昇した。14年の輸出先上位は、①米国(60.4億ドル)、②中国(56.4億ドル)、③ロシア(13.5億ドル)、④ブラジル(10.5億ドル)、⑤インド(7.8億ドル)、⑥日本(7.7億ドル)、⑦チェコ(7.7億ドル)と、日本を除いて、すべて現地生産が行われている国が占める。

興味深いのは、現地生産はおろか完成車の輸出実績の乏しい日本への輸出が増加していることである。対日輸出が増加した要因には、次の3点が考えられる。

第1は、韓国製自動車部品のコストパフォーマンスの向上である。①完成車メーカーによる厳しい品質管理、②通貨危機後の部品企業の統合やモジュール化の推進、③高い技術力を有する外資系企業の参入などが寄与した。現代自動車は2000年12月、部品会社を集約して現代モービスを設立し、モジュール化、プラットフォームの統合、部品の共有化などを推進した。

第2は、韓国部品企業による積極的な市場開拓である。現代モービスはヘッドランプ、リアランプなどを三菱自動車や富士重工業に直納しているほか、他の企業も供給先を新たに開拓した。2010年、11年と「超円高」が続いたこともプラスに作用した。大韓貿易投資振興公社(KOTRA)も商談会の開催などを通じて販路の開拓を支援している。

第3は、上述の点と関連するが、日本の完成車メーカーによる調達の拡大である。日産自動車では、日産車体九州が生産する商用車に、韓国製部品(ルノーサムスンの取引先で釜山周辺に拠点を置く企業)を積極的に採用している。韓国から調達するのはコストパフォーマンスの高さに加えて、物流コストの削減にもつながるからである。日産車体九州(福岡県苅田町)と釜山の距離(約200キロメートル)は関東や中部圏よりも近く、11年9月の日韓政府間合意により、日本と韓国との間でシームレスな物流ができるようになった(日本のトレーラーが韓国内を走行し、フェリーで海を渡り、日本国内の自動車工場に部品を供給する)ことによる。

■生産シフトの影響で対日輸入が減少
他方、対日輸入が2010年をピークに減少している背景には何があるのだろうか。東日本大震災(11年3月11日)を契機に、韓国の完成車メーカーが輸入先を切り替えた影響もあろうが、日本の完成車メーカーが日本から韓国へ輸出していた自動車の一部を、米国からの輸出に切り替えた影響が大きいと考えられる。日本からの補修部品の輸入が減少するからである。

「超円高」(円ドルレート<年平均>は2007年の1ドル=117.8円から11年に79.8円にまで上昇)により価格競争力が低下したほか、韓米FTA(12年3月15日発効)の発効に伴い米国製輸入完成車に対する関税率が8%から4%に引き下げられた(5年目に撤廃)ため、米国工場で生産した完成車を韓国市場に投入する方が有利になったのである。

以上のように、韓国の自動車部品貿易の黒字化には、完成車メーカーによる海外生産ないしグローバル調達の拡大などが影響している。
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