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日本総研ニュースレター 2009年9月号

米国公共交通への日本の参画意義と参入方策

2009年09月01日 副島功寛


1.米国の公共交通の転換が促される理由
 米国では、オバマ政権による「高速鉄道計画」の公表を受け、公共交通に関する議論が活発化している。今年6月のJR東海会長による米運輸長官往訪をきっかけに、日本の新幹線技術の米国展開に注目が集まっているが、公共交通には都市間交通である高速鉄道の他、都市内交通としての鉄道、地下鉄、LRT(路面電車等)、バス等が含まれる。車中心社会の米国において、公共交通への転換が生じるかについては異論も多いが、主に以下の理由から、その転換が着実に促されると考える。
 理由の一つは、厳しい温室効果ガスの削減目標である。7月のラクイラ・サミットにおいて「2050年までに先進国で1990年比80%以上の削減」との目標が合意されたため、米国も温室効果ガス削減に向け、本格的な取り組みを開始せざるを得ない。つまり、電気自動車やハイブリッド車へのシフトだけでなく、車から公共交通へのシフトが必要になる。
 また、既存の交通インフラの悪化も挙げられる。米国下院の交通インフラ委員会が今年6月に示した「交通インフラへの投資と改革の青写真」によれば、米国では、交通渋滞により年780億ドル、交通事故や遅延により年3,650億ドルの経済損失が発生している。経済効率向上には、交通インフラの抜本的な転換が不可欠なのである。
 そして、国民の高い支持に支えられたオバマ政権が公共交通へのシフトにコミットしていることが大きい。米国再生・再投資法(ARRA)では高速鉄道整備に対し80億ドルを用意しており、2010年度の予算教書では、今後5年間で50億ドルの投資を予定している。ARRAが一定の成功を収め、オバマ政権に対する米国民の信認が持続的となるのであれば、継続的なバックアップが期待できるはずである。

2.日本企業が米国の公共交通に進出する意義
 日本国内でも地方を中心に交通網再建が必要な状況下で、なぜ米国の公共交通事業に参画する必要があるのか。
 それは、2050年の日本の国際社会でのプレゼンスに影響するからである。2050年に米国が温室効果ガスの削減目標を実現したとき、その達成要因が一般の人々に恩恵を与える公共交通にあれば、その技術の源である日本への評価は米国の裾野から確実に高まる。そしてそれは日本の国際社会での存在感の向上につながるはずである。もちろん、国内市場の縮小が不可避である以上、成長の源泉を海外に求めざるを得ないこともまた、大きな理由であろう。
 環境性と米国民のライフスタイルの向上の両立は、日本企業による洗練された「モーダル・インテグレーション(交通手段の統合)」でしかなし得ない。公共交通によって環境負荷を低減しつつ、車以上の移動の快適性を供与し、かつ治安を含めた運行の安全性を担保するオペレーションノウハウは、日本の最大の強みである。改めて、日本企業の高い技術やノウハウに期待したい。

3.究極のPPPによる新たな公共交通インフラづくり
 日本企業が米国の公共交通事業で事業性を確保するには、まずは迅速な参画が欠かせない。今すぐに対応を始め、日本のあらゆるリソースを投入しなければ、熾烈な競争のなかで進出機会は急速に縮小し、受注は遠くなる。
 特に、計画段階からのアプローチは、技術的な面からも必須である。例えば台湾の高速鉄道では、運行開始の遅延や 日本にとって最適な運行システムの導入ができない等の課題が生じたが、それらは計画段階で欧州に出遅れたために、日本の新幹線技術が欧州規格の下で使われるにとどまったからである。
 米国の既存の社会システムとの協働も条件である。バイ・アメリカン条項に代表されるように、雇用や地元企業への配慮を、事業の枠組みに組み込まねばならない。また、新たに新線を整備する手法はコスト面からも現実的ではなく、結果として、既存事業者との連携が重要となろう。
 つまり、多くの関係主体が連携して計画当初から多面的な提案を行い、既存システムと融合しながら進めるという、“究極のPPPによる新たな公共交通インフラづくりへの挑戦”なのである。
 その機会は、今しかない。2050年の国際社会での日本のプレゼンスを確保するためにも、米国公共交通への参画に向けた本格的な取り組みを、今、始めるべきである。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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