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日本総研ニュースレター 2009年4月号

既存技術の活用もお忘れなく ~環境事業イノベーション~

2009年04月01日 松井英章


景気回復の推進役としての環境ビジネス
 未曾有の経済危機が世界を襲っている。日本の2008年10月-12月期のGDPは年率換算で12.1%減となった。こうした状況の中、米国オバマ政権の“グリーンニューディール政策”に呼応して、日本政府でも「緑の経済と社会の変革」(いわゆる、日本版グリーンニューディール)を呼びかけ始めた。今後5年間で環境関連産業の市場規模を100兆円にする目標を軸に、2009年3月中に具体策をまとめる予定となっている。
 環境技術立国を目指す日本にとって、新しい発展の鍵は環境であり低炭素社会実現への貢献であるとことがエコノミストの間でも盛んに議論されている。環境事業は、もはや環境を救うためだけでなく、景気活性化でも重要な役割を期待される存在になったといえる。

技術開発主導型企業にとっての環境事業
 下図に、新規技術開発の必要性の有無、市場の新規性の有無に応じた環境事業イノベーションの分類を示した。技術開発主導型の企業にとって、困難ながら魅力的なのは、革新的な技術による新規市場創設である(領域A)。もちろん、全ての新技術が新規市場を創れるわけではないので、例えば照明メーカーが白熱灯を蛍光灯やLED照明へ置き換えていく事業を展開しているように、既存市場(既存製品)の代替を図る戦略が一般的である(領域B、C)。



新規技術開発だけが環境事業参入の条件ではない
 実は、新技術を開発しなければ、環境事業に新たに参入できないわけではない。多くのメーカーにとっては、むしろ既存技術をどのように環境市場で活用していくかが重要である。従来、環境事業との関連が少なかった企業であっても、自社技術の棚卸しにより環境製品の主要部品の開発・製造を担える可能性もある(領域E)。歯車増速機メーカーであった石橋製作所が、風力発電設備の主要部品の一つであるギアボックスに参入した例は有名であるが、環境製品の裾野の広さを鑑みれば、自社製品・技術の転用の余地がある領域は決して少なくないはずである。
 もっと言えば、自社の技術を持たないサービス業界の企業でも、他社の既存技術と自社サービスを組み合わせることで、新市場創出を図ることができる(領域D)。駐車場サービス企業が電気自動車メーカーの協力を得て、空いている駐車場スペースを活用した電気自動車シェアリング事業を展開する試みはその一例である。駐車場代の高い都心部では自動車を所有しない人々が増えているが、この事業では環境負荷を抑えつつ、非自動車ユーザーの自動車並びに駐車場の活用を促すことが出来る。
 既存製品に事業的な価値を与えることも、環境事業参入方法の一つである(領域F)。中国の太陽電池メーカーであるサンテックパワーは日本市場に参入するに当たり、自社製品に25年という超長期の保証を付与することを表明した。余剰電力の固定価格買い取り制度によって再び太陽電池市場が魅力を増しつつある日本で、大きく躍進する可能性がある。
 自社の技術の棚卸し、あるいはビジネススキームの組み方次第で、現時点で革新的な環境技術を持っていない多くの企業にも、環境分野への新規参入や事業拡大のチャンスは大いに存在するのである。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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