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最新ICT技術が体現する “BtoI (Business to Individual)” マーケティング

2015年02月24日 劉磊


 時代の移り変わりと連動して、消費者の像が変化し多様化している。適当な表現は見つけにくいが、その流れは高度成長期およびそれ以前の「十人一色」からはじまり、バブル期初期には「十人十色」が芽生え、それ以降定着した。バブル崩壊後はICT技術の急速な発展と普及、SNS等の浸透で「一人十色」が表現にはもっともフィットするだろう。そして、これは筆者の私見であるが、現代の日本は「十人一色」世帯、「十人十色」世帯、「一人十色」世帯が同時に存在する少ないマーケットであり、興味深い側面を覗かせつつ、マーケターを悩ませている。

 近代マーケティングの父と言われるフィリップ・コトラー氏はマーケティングの概念を1.0(製品中心)、2.0(消費者志向)、3.0(価値観主導・顧客協創主義)として定義してきた。直近ではマーケティング4.0(自己実現)の考えも披露しているが、現在は概念として2.0から3.0へ過渡期であるという認識が一般的であろう。

 概念と並行して実務はどうだろうか。確かにSWOT、3C、STP、4Pに代表されるフレームワークを万能とするマーケティング2.0が限界を迎えている事は共通認識であろう。多様化し続ける顧客ーズは把握する事自体が難しく、繰り広げられる価格競争、短縮される一方の商品ライフサイクルにマーケティング戦略策定担当者は疲弊している。一方で、マーケティング3.0も定着したとは言いがたい。製品の裏側にあるストーリーを消費者と共有し、理念に共感してもらうことで特定の商品のファンになってもらう価値観主導の概念は頷ける。これに対して顧客協創に向けたチャンネル構築・理念共感のプロセスやツールがあるのか、それをマーケターたちは使いこなせているのか。実務と概念に間には見えない、深く、幅広い「谷」が存在している。また3.0になって「社会や世界をよりよくする」という社会的な価値概念が登場したことも理由の一つであると考えられる。多くのマーケターはそれを咀嚼し、消化したとは言えないであろう。

 これは筆者の仮説であるが、我々にはマーケティング2.0~3.0間の非線形的な変化を補完する「2.5」の定義と手法が必要なのである。それが、“BtoI (Business to Individual)” マーケティングという概念だ。BtoI マーケティングでは消費者の嗜好と現在のTPO+E(Time, Place, Occasion + Emotion)をリアルタイムで認識・解析し、その場に適した最適解を消費者にレコメンドするだけでなく、将来起こるであろう消費行動を予知し、Bサイドにより効率的な消費者エンカウントチャネルとマネージメントツールを提供する。この概念を実現するICT技術的背景としては、スマートデバイスの普及、インターネットの高速化があり、要素技術としては、顔認識などの感情取得に関する先進的アプリケーションの一般普及、ビッグデータ解析などがあるが、要素技術を統合する際のパズルの最後のピースは屋内LBS(Location-based-solution)技術であろう。屋内LBS はWi-Fi、Bluetooth、超音波センサー、赤外線センサー、iBeaconなどの単体もしくはこれらの組み合わせを利用し、製作された屋内の電子地図上での移動を数センチ~数10センチで特定する技術である。位置特定アルゴリズムの成熟に伴い、近年アプリケーションが進んでいる要素技術である。従来のLBSは屋外でGPSをベースに個人の位置を特定してきたが、衛星信号が乏しい屋内(実際の消費行動が行われている場面)はブラックボックス化していた。屋内LBS の登場は文字通り、「消費者行動を時空間においてシームレスで観察可能にしてくれるバリュー・イノベーション」である。業界動向に関してはノキア社が発起人となり、LBSのサービス技術標準化やシステム導入の促進を図るための業界団体「In-Location Alliance」を2012年8月に結成。また、海外では、2014年5月に米小売り大手ウォルマートとWalgreensがiBeaconの導入を決めている。日本国内でも2014年に羽田空港第一ターミナル、パルコ名古屋店、紳士服大手のAOKIなどで部分的な導入試験が展開された。

 2002年に「シチュエーションマーケティング」という考えがミカエル・ビョルン氏によって提唱され、著作も含めて一世を風靡した。今でもそのアイデアが色褪せる事はないが、当時、その好奇心くすぐる概念が定着しなかったのには単純な理由がある。当時の技術ではその先進的な概念を実現することができなかったのである。BtoIマーケティングとシチュエーションマーケティングは同じ発想をベースにしつつも、相違点は複数ある。まずは切り取る消費者の生活の「ひとコマひとコマに」Emotionがあること。次にビッグデータ解析に基づくリアルタイム解析と行動予想機能が付与されたこと。そして、時空間シームレスなLBSとのシナジーであることだ。

 技術進歩は、時おり時期尚早であるとお蔵入りにされた原石を掘り起し、ブラッシュアップする機会を与えてくれる。技術的環境はBtoIマーケティングが実現可能であることを示している。そして、それを体現するのは、おそらくマーケティング2.5を熟知した「データサイエンティスト」であろう。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。

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