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日本総研ニュースレター 2009年2月号

「内なる改革」が建設業界のグローバル化を推進する

2009年02月02日 山田英司


遅れをとる国内建設企業のグローバル化
 日本における建設産業の低迷に歯止めがかからない。公共投資の縮減だけでなく、民間設備投資の減速による建設投資の減少、重層構造や産業従事者の高齢化などを原因とした低い生産性、これらの要素に過当競争が加わっての低収益率に業界全体が喘いでいる。今後を考えても国内マーケットにおいては曙光が見える要素は少ない。
 他方、世界のインフラ市場では、中国・インドなど発展目覚しい地域においては都市インフラの整備充実が、アジア・アフリカなどの発展途上地域においては社会基盤インフラの整備が進むなど一定の拡大基調にある。 
 このような状況であれば、建設企業がさらなるグローバル展開を進めても良さそうだが、グローバル市場では日本の建設企業の存在感は薄い。先般の北京オリンピックにおけるビッグプロジェクトにおいて、現地中国企業は別として欧州の大手が席捲したのは記憶に新しい。

グローバル市場で通用しないのは「技術」ではなく「ビジネスモデル」
 しかし、大手ゼネコンを中心とした建設企業のグローバル展開の足取りは依然重い。これは過去、彼らが海外工事で度重なる損失を計上してきたことが背景にある。
 グローバル化を進める前に、過去に失敗した原因を総括する必要があるが、大きな原因としては日本のビジネスモデルがグローバル市場では通用しないことが挙げられる。
 日本の建設企業は、工事の受注実績を競争力として総額請負方式で契約し、下請けへの発注差額を利益源泉としている(図下)。このビジネスモデルでは、現地調達のネットワークに乏しい日本の建設企業が利益を確保するのは難しい。
 一方、欧米企業のビジネスモデルは技術的な付加価値の対価が利益源泉である。それゆえグローバル市場では技術的な付加価値について対価を受けるCM(Construction Management)方式が主流となっている(図下)。



 これらCM方式の基礎をなす技術水準については、日本の建設企業には充分に競争力がある。コンクリートや鉄筋など素材に関する技術、構造や躯体の耐久性に関する基礎技術の水準は、欧米に比較しても遜色ない。加えて、日本人の特質である「すりあわせ」を軸とした、顧客の要求を満たす納期・品質遵守のノウハウについて発注者から高い評価を得ている。繰り返しになるが、グローバル市場で通用しないのは「技術」ではなく、「ビジネスモデル」なのである。

「内なる改革」がグローバル化を促進する
 これらを受け、日本の建設企業がグローバル化を推進する条件を考察する。現地での調達力などネットワーク構築や、海外向け人材の育成などの課題克服は当然として、重要なのは総額請負方式をベースにした日本独自のビジネスモデルからの脱却、具体的には総額請負方式からCM方式への転換である。安泰だった国内市場も、建設投資の縮小と過当競争によって総額請負方式は限界に来ており、脱総額請負経営は業界の急務となっている。
 脱総額請負の実現には、建設企業に根強い受注高至上主義の払拭が先決となる。今後は公共工事の発注形態を転換し、CM方式の比率を高めることが、官からの強力な後押しとして欠かせない。
 これらの改革で日本の建設ビジネスの慣行がグローバル標準に追いつけば、おのずと建設企業が海外に展開する道が開ける。また国際的な業界再編も進むであろう。「内なる改革」がグローバル化への第一歩であることは間違いない。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません
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