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日本総研ニュースレター 2009年6月号

いつまで続くか、人による情報システムの開発

2009年06月01日 佐藤哲史


巨大化・複雑化する情報システムの明暗
 近年、企業の情報システムは利用目的の高度化や技術自体の進歩、そして企業間合併への対応などを行うなかで、複雑化や巨大化が加速している。社内業務から顧客サービス提供に至るまで、インターネットや携帯電話を介して行えるのが当然となるなど、利便性は高まるばかりである。
 一方、情報システムに障害が起きたときの社会的な影響は、すっかり社会インフラとしての地位を築き上げているだけに非常に大きい。現金を引き出せない、電車を運行できない、唯一の注文手段であるインターネットがつながらないなど利用者側の利便性を損なうほか、企業業績に重大な影響を及ぼすシステム障害が目立つようになってきた。情報システムの進展は、決して歓迎すべきことばかりではない。
 情報システムが巨大化し複雑になれば、開発や運用の難易度が上昇する。その難易度はシステムの規模に比例する程度どころか指数関数的に上昇し、多くの問題を引き起こしてしまうのである。

必要スキルを見積もれない開発現場
 いずれにせよ、企業の情報システム開発の世界では、開発工数が十数万人月を超え、「ピラミッド建造並み」といわれる大型プロジェクトが登場する時代を迎えている。
 プロジェクトマネージャやシステムエンジニアを数千人単位で投入する大型プロジェクトの成功には、数だけでなく質の高さも欠かせない。技術、管理、コミュニケーションスキルの充足とともに、完成を目指す意志とその維持が必要だ。
 しかし、こうした規模で必要スキルの充足度を正確に把握するのは容易ではなく、実際、プロジェクトの責任者が何となく大丈夫と見て開発に着手することも少なくないと思われる。そして人を育てながら開発を進め、問題が健在化したら手当てする、という旧来の治療的な対応から脱却できていない現場が多いのが実情だろう。

まずは、見えないものを見えるように
 情報システム化の目的の一つに、経営や業務の「見える化」がある。これらと同様、情報システム構築の現場自身にもさらなる「見える化」が必要ではないか。また、全作業者の稼働状況といった、プロジェクトが大型化することで見えなくなったものを再び見えるようにする「見える化」も大切だが、スキルや意欲といったそもそも見えないものを見えるようにする「見える化」への取り組みの方がより大切であろう。
 スキルの充足度の正確な把握や成果物の完成度の予測ができない状況では、プロジェクトの立ち上げ時の要員計画や進捗の妥当性を評価できない。こうして作られたダメな計画では、実行の巧拙にかかわらず成功を期待できない。
 情報システム構築の成功には、治療より予防に重みをおいた対応が必要である。それにはシステムエンジニアの数と質を確保するだけでなく、意欲などの気持ちの状態把握と素早い手当て、そして成果物の出来高を投入時間比例ではなく実質的な完成度によって把握する仕組みがなければならない。現在の情報システム構築では、完成出来高を目視しやすい建造物建設のプロジェクト管理手法が主に用いられているが、これからはそれに加え、情理的なものの「見える化」を図ることと、完成度算定を自動化した管理手法と技術開発が欠かせなくなるだろう。

そして、「鉄腕アトム」の登場を期待
 現在の開発現場では、再利用やソフトウェアパッケージの導入など、新たな作り込みを回避することで開発生産性や品質の向上を目指す傾向が続いている。
 しかし、建設現場における大型重機や新技法に相当する開発ツールを導入するなどの、開発生産性や品質を本質的に向上させる取り組みが進んでいないのが実情だろう。
 開発技術の進化がなければ、開発規模に見合った人員を投入せざるを得ない。情報サービス業界は、いつまで労働集約産業のまま存続できるのか。ピラミッドは人間の知恵と工夫で建造できたが、巨大システムを人間の力だけで開発するのは、そろそろ限界を迎える頃ではないか。
 今後、情報システム構築の改革は、労働集約的な部分をいかに排除していくか、がテーマとなるだろう。それが究極に進めば、「遂にプログラム製造ロボットが誕生。人間がプログラムを作る時代の終焉」と報道されるような日が来てもおかしくはない。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません
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