コンサルティングサービス
経営コラム
経済・政策レポート
会社情報

経営コラム

日本総研ニュースレター 2010年12月号

社会インフラ事業者の「リノベーション住宅分譲ビジネス」の可能性

2010年12月01日 新角耕司


未だ健在の「新築住宅信仰」と伸び悩む既存住宅市場
 わが国の総住宅数は1968年以降一貫して総世帯数を上回っており、総世帯数4,997万に対し総住宅数は5,759万戸に上る(2008年時点)。15.2%もの物件が余剰となっているのは、戦後の持ち家促進政策を通じて国民に醸成された「新築住宅信仰」が今でも根強く、既存住宅に手を入れながら住み続ける、あるいはライフステージの変化に合った既存住宅に住み替えていくという生活様式が浸透していないからである。
 一方で政府は、既存住宅の性能向上や環境負荷低減要求の高まりなどを背景に、住宅の長期利用の促進策を打ち出している。例えば2006年施行の住生活基本法および住生活基本計画(全国計画)では、住宅の長寿命化と既存住宅流通の活性化が数値目標と共に明示された。また、2010年5月に発表された国土交通省成長戦略でも、住宅・都市分野における大戦略の一つとして「住宅・建築投資活性化・ストック再生戦略」が挙げられ、その中で「質の高い新築住宅の供給と中古住宅流通・リフォームの促進を両輪とする住宅市場の活性化」が謳われている。
 制度面での充実は進むものの、肝心の流通量は伸び悩んでいる。住宅着工統計および住宅・土地統計調査のデータによると、2008年では新築住宅着工戸数109.3万戸に対し、既存住宅流通戸数は17.1万戸にとどまり、年間住宅供給戸数に対する割合の13.5%に過ぎない。これは英国の88.8%、米国の77.6%に比べると、少なさが際立つ。

既存住宅市場への不安要素は「個人間売買」
 消費者から見た既存住宅の購入阻害要因として、個人間取引に対する心理的リスクの存在を指摘できる。
 住宅の性能は新築直後から徐々に低下するが、瑕疵の有無を非破壊的に確認することは容易でないため、通常、買い手は購入後にしか瑕疵の存在を認識できない。その場合の売り手とのトラブル発生可能性を過大に評価する結果、個人間売買では既存住宅の購入に踏み切れないケースが多く存在すると想定される。不動産業者と媒介契約を結んだ場合にも個人間取引であることに変わりはなく、買い手の心理的リスクは軽減されない。
 既存住宅流通の阻害要因は、既存住宅に対する更新履歴情報や評価査定制度の不備などがこれまで指摘されてきたが、消費者側の心理的不安の面も大きいのである。

信頼できる企業の介在で消費者に安心感を
 この問題の解決には、企業が既存住宅を消費者から買い取り、リノベーション(新築同等の性能・機能を付加するリフォーム)後に、長期保証を付与して再び消費者に販売することが有効と考えられる。新築同等の外観と性能を有しながら手頃な価格の住宅を、信頼できる企業から購入できれば、買い手の心理的リスクを低下させることが可能になり、既存住宅購入の促進が期待できる。
 このような「リノベーション住宅分譲ビジネス」には、仕入れ物件のリノベーションコストが過大となるリスクや物件の売れ残りリスクが存在するが、人気エリアの築浅物件を確実なインスペクション(検査)で選別することによってある程度回避可能である。既に、2008年には大手住宅メーカーを中心とした「優良ストック住宅推進協議会」が、2009年にはビルダー・工務店を中心とした「一般社団法人 リノベーション住宅推進協議会」がそれぞれ設立されるなど、業界を挙げてリノベーション住宅の普及啓蒙活動が行われている。
 そこで、本ビジネスを鉄道・エネルギー等の社会インフラ事業者が新規事業として取り組まれることを提案したい。消費者からの信頼度が高いブランド力をはじめ、既存住宅の一時的在庫にも耐え得る強固な財務基盤、グループ内の不動産事業とのシナジー可能性などを兼ね備える社会インフラ事業者が、本ビジネスにおいて有利なポジションを確保する可能性は高い。
 社会インフラ事業者が自社営業エリア内にリノベーション住宅を多数供給すれば、住みよいエリアで手頃な住宅を求める子育て世代を誘引できるだろう。それは本業収入の安定化に寄与する上、同じく地域活性化を目標とする地元自治体との共同取り組みにも発展する可能性を秘めている。地域の発展と自社の発展が同じ意味を持つ社会インフラ事業者にとって、本ビジネスは単なる収益事業の枠を超えた意義深い取り組みになるはずだ。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません
経営コラム
経営コラム一覧
オピニオン
日本総研ニュースレター
先端技術リサーチ
カテゴリー別

業務別

産業別


YouTube

レポートに関する
お問い合わせ