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日本総研ニュースレター 2010年5月号

強い組織作りは会議運営にあり

2010年05月06日 片岡幸彦


成果主義人事の失敗
 組織力の強化は、企業の大きな課題の一つである。例えば、成果主義人事が一時もてはやされたのも、「強い組織作りは、強い個人の集合体によって作られる」という仮説に一定の説得力があったからである。しかし、成果主義人事は、「成果を上げた個人が良い処遇を受ける」面ばかりが浮き上がり、優勝劣敗の構図と一部の優秀な社員の離脱などをもたらすことも多かった。結果として成果主義人事は、強い個人を作ることにある程度貢献したかもしれないが、個人主義の加速やノウハウ移転の阻害など、かえって組織力の低下を招くことも少なくなかったのが実情といえる。

強い組織に不可欠な関係性の強化
 そもそも組織力の強化は、人事制度だけではなく、組織運営の方法の改革も欠かせない。例えば、MIT教授であるダニエル・キムの「成功の循環」の考えによれば、「結果の質」を高めるには、まずはメンバー同士の関係の質を高めるところから始めなければならない(下図)。




 関係の質が高まり対話の量が増えてくると、「思考の質」が高まる。そして思考の質が高まれば行動化が容易になり、「行動の質」も高まってくる。そして最終的には「結果の質」が高まることになる。強い組織では、この循環を築き、機能させているのである。
 そうした関係性強化のプロセスを無視して「結果の質」のみを求めてしまうと、個人を必要以上に追い込むことになり、結果として組織はバラバラになっていく。こうなると、どのような人事制度を導入しても、うまくいくはずはないだろう。

「関係の質」を高める会議
 「関係の質」を高める場として、特に組織のメンバーが一堂に会する「会議」の役割は非常に大きい。近年では、トリンプやキリンビールなどのように、特色ある会議運営で業績を伸ばした企業の存在も知られるようになり、会議運営への関心が企業の間でも高まってきた。
 中でも特に、「質問と振り返り」を続ける形式によるアクション・ラーニング(質問会議)が脚光を浴び始めている。
 アクション・ラーニングは、単に意見を言い合う会議ではない。意見を言い合う会議では、最初に意見を述べた者との対立が生まれることも多いが、「最初は必ず質問」という形のアクション・ラーニングでは、質問そのものが会議の中心に置かれることで、メンバーからの意見が出やすくなり、さらに合意も得やすくなる。そして、それが実際の行動につながって、結果の質の向上につながる。
 ここでのリーダーの最初の役割は、メンバーへの「質問」によってメンバー自らが解決策を見出せる場を作り、顕在化させることである。メンバーは、質問を受けることで内省を促され、自ら問題の本質に気付く。そしてリーダーは、メンバーが見つけ出した答えを全員の同意を得るプロセスを踏ませることで、組織としての行動化を促進していく。

会議は組織の思考プロセス
 このアクション・ラーニングを全社的に取り入れることで、グループ間の連携が強化された企業も数多い。会議が有用になることによって、各グループのリーダー間のコミュニケーションが格段に向上し、それが共同で問題解決を図るなどの行動につながるからである。さらに、リーダー自らが関係組織からの情報を吸い上げ、周囲の知恵を結集して問題解決に当たるなど、リーダーシップスタイルの変化が見られるようになることも少なくない。
 会議は組織の思考プロセスそのものである。ある教育学者は「いま我々が重要だと思っている技能や力は陳腐化する。しかし新しい技能や力を学習する能力は陳腐化しない」としているが、「意見を言わない」「質問と振り返り」という思考プロセスを手に入れることは、組織が組織としての思考力と行動力を高め、さらに自ら改善を続ける能力を手に入れることだといえるだろう。
 「個人の内省」「全員の合意」「プロセスの共有」によって、メンバーが納得感と強い連帯感を持ちながら意思決定し行動できる「強い組織」は、適切な会議運営を起点にして実現されるのである。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません
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