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日本総研ニュースレター 2010年1月号

日本の製造業の中長期的成長戦略策定のあり方

2010年01月04日 時吉康範


成長戦略に欠かせない「産業構造を変革させる思考」
 行政刷新会議による事業仕分けでは、ムダ削減の後に来るべき成長戦略が見えなかった。このことは、投資額や要員数といったインプットの削減に腐心し、次世代の柱となる事業の絵姿が見えてこない日本の製造業の縮図にも映る。
 近年は、製造業の研究開発テーマの成果の小粒化が目立つ。短期的な業績を追うあまり、「製品の要求スペックとそれを満たす技術の開発」という狭い視野で思考するからだ。
 製造業が大粒のテーマを見つけるには、「事業」の上位概念にあたる「産業構造」を変革させる視点が必要となる。業界の主要プレーヤーを退場させる要素を持つ新技術を開発するには、技術者は技術だけでなく、産業動向をとらえ、産業と技術を結び付ける思考と提案が求められる。

3つの要素で考える産業構造の変革の可能性
 産業構造が変革する可能性は、以下の3つの項目によって判断できる。
 ①新技術の重要性:
 ・ 開発する新製品・技術は、最終製品にとって重要か
 ②既存の主要プレーヤーの新技術の非適応性:
  既存の主要プレーヤーは、その新技術を保有しているか。
  その新技術は、誰でも保有し得るか。
 ③新規参入企業の数と多様性:
  新規参入企業が、続々と登場し得るか。
 参考④:他産業との連動性が高いほうが変革はより加速する。
 成長市場を求めて、後進国への進出を目論む日本企業が多い。そこで、上記の3点を踏まえながら、成長する後進国の代表格である中国における「車両の電動化」を例にとり、産業構造の変革と技術の結び付きを考察する。
 車両の電動化とは、決定的に重要な動力源を、モーター、インバーター、コンバーター、二次電池が担うことである(上述の①新技術の重要性)。それぞれの技術は、既存の自動車メーカーがそもそも保有しておらず、かつ、電池を除くと既に限界まで性能を引き出そうとする成熟レベルにある。裏返すと、二次電池の技術開発競争だけは非常に激しい(上述の②)。さらに中国では、新規の電動自動車メーカーが続々登場している。(上述の③)。
 既成概念にとらわれない利用シーンが既に広がり始めるなど、中国の車両の電動化は、世界に先行して自動車業界の構造を変革していく可能性がある。

日本の製造業の中期的な成長戦略のあり方
 この変革を具現化する中国の自動車・部品メーカーの技術開発の動きを以下に述べる。
 1.単独で技術開発に専念するのではなく「仕掛けて巻き込む」
 産業構造の変革の潮目を察知して、産官学に同時に仕掛け市場形成を促す。例として、政府への政策提言、大学との協働、民間企業との提携・買収、を同時並行で行う。
 2.「ローエンド技術を活用」して実用化する
 ハイエンドの技術開発ではなく、ローエンドの技術を低コストで実用化する応用技術を開発する。例として、携帯電話用の二次電池セル・パックを大量につなげて制御するソフトウエア技術を開発する。
 3.事業領域を「川上、川下に拡げて既存プレーヤーを退場させる」
 サプライチェーンの供給者、顧客の領域に侵食する。例として、二次電池メーカーは電気自動車メーカーに転身したり、材料となるレアメタル源そのものを押えたりする。

 これらの中国の車両電動化における戦略は、日本の製造業が後進国で成長するためのカギを示唆している。
 年商数兆円規模の企業は別にして、個別の企業が自社のものづくり技術だけで海外市場を勝ち残ることは難しい。グローバルな事業デザイン力と動的知財流通の仕組みづくり――すなわち、グローバルな視点から産業構造の変革をとらえ、海外市場で勝ち残れる事業をデザインし、バリューチェーンで必要となる既存技術と技術者を日本企業から募集・編集する「垂直統合型のオープンイノベーションの仕組み」を構築し、実践していくことが求められているのである。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません
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