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日本総研ニュースレター 2012年11月号

新興国スマートコミュニティービジネス立ち上げの実際

2012年11月01日 中村恭一郎


スマコミのショーケース作りに力を注ぐ新興国
 中国の天津生態城やUAEのマスダールシティといったスマートコミュニティー(スマコミ)開発が認知されるようになって3年ほどが経った。経済成長と都市化が急速に進む新興国では、政府肝いりのショーケース的なスマコミプロジェクトを立ち上げ、都市の魅力向上と先進国からの投資獲得や企業誘致を目指す動きが依然として顕著である。
 一方、参入競争にしのぎを削る先進国企業の間からは、そもそもの要件定義が十分ではなかったために、プロジェクトの具体化が進まないといった声も聞かれる。本稿では、新興国スマコミビジネスが抱える意外な課題と、日本企業の商機拡大にもつながる解決への方策について述べたい。

現地は自らの課題を認識していない
 新興国のスマコミ計画の大半は、専門ノウハウを持つ主に先進国のプランナーと、発注者である現地政府の計画部門が共同で策定する。ところが、その計画上でのビジネス展開を考える企業や現地政府の現業部門は、計画の先進的な内容と目の前の現実とのギャップに戸惑う場面が多い。
 例えば、電力事業者にとっては、スマートグリッド化などの先端的な取り組み以前に、電力不足解消のための新規発電所建設や、停電のない安定した電力網の構築といった基礎的なことが急務であるケースが多い。
 また、地域住民からの理解を獲得することの重要性への認識や、彼らからの理解を獲得するノウハウも不足している。実際、焼却技術の安全性を十分説明しないまま進めようとしたある廃棄物発電プロジェクトは、地域住民の強い反発で頓挫してしまっている。
 概して、新興国政府の発注者は、スマコミの目的は理解し問題意識は持つものの、自らの国の要件(技術、インフラ等)をはじめ、実装すべき技術仕様やプランナーの描いた計画の実現可能性を評価する知識、そして地域住民とのコミュニケーションなどが不十分である。つまり、発注者はスマコミ実現に向けた真のニーズや、取り組みステップ(ロードマップ)を必ずしも把握していない。

高度成長期の「泥臭い」経験を活かす
 結局、発注者からの情報のみに頼っていては、課題やニーズの核心をつかめず、自社の製品やシステムのスペックインは進まない。それにもかかわらず、日本企業は、新興国が示す目新しい計画どおりに先端的な技術やシステムを売り込もうとしていないか。新興国においては、企業側は積極的に発注者と協働して現地の事情を再整理し、さらにスマコミビジネスの担い手となる現地事業者や地域住民の真のニーズを掘り起こしていかなければ、まず前に進まない。
 例えば、基盤となる電力網が不安定な状態のままでは、天候に左右される再生エネルギーを大量に導入することは出来ない。インフラの基礎を確立して初めて、スマコミ計画で謳われる先端的な技術やシステムの実装が可能となることを冷静に見極めて指摘し、その部分から参入していくことが重要である。筆者は、アジアのある新興国の電力事業者幹部から、日本企業が設計した電力網の安定性やメンテナンスの容易さなどを非常に高く評価する声を聞いたことがあるが、実際、日本企業の「壊れず、長持ちする基礎インフラ」は売り物になる。
 地域住民とのコミュニケーションについても、日本企業が貢献できることは多い。高度経済成長期に直面した多くの深刻な公害問題において、大企業も地域企業も必死に知恵を絞り、地方自治体等と共に地域住民とコミュニケーションを図りながら問題を解決してきた。先端的な技術やシステムが付加価値となるスマコミビジネスを目指す中にあっても、こうした「泥臭い」経験が活きる場面は必ず存在する。
 既に、発注者と共に地域住民を巻き込んだワークショップを開催するなど、地域住民とのコミュニケーションに本腰を入れる企業も現れ始めた。計画段階から様々なステークホルダーとコミュニケーションを図り、繰り返し提案活動を行うことで、計画への理解が深まるばかりでなく、現地のニーズが喚起され、新たな商機につながるからである。
 成長の裏に隠れる「泣き所」を理解し、それに解決策を提示することが、日本企業が新興国のスマコミビジネスで商機を開拓、拡大するための方策といえる。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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